東京オリンピック・パラリンピック開会式までひと月。菅義偉政権は、政府の基本的対処対策本部の尾身茂会長らの「無観客で開催するのが望ましい」という進言をスルーして、観客を入れての開催を強行する。
2021年6月21日、政府、東京都、大会組織委、IOC(国際オリンピック委員会)、IPC(国際パラリンピック委員会)の5者会議の場で決まった。
そんななか、注目されたのが7月23日の開会式を「特例」で2万人以上を入れて開催する「暴挙」だ。
「五輪貴族」と言われるIOCファミリーやスポンサー企業の招待客を特別に会場に入れることも決めた。「観客ではなく、大会運営者という立場だ。ご理解いただきたい」(武藤敏郎事務総長)という屁理屈で説明したが、ネットでは怒りの声が殺到している。
東京都内の医師会が連名で「無観客に」と抗議
東京五輪を「有観客」で開くことについて、
「東京五輪で新型コロナウイルスが再拡大するのが怖い。無観客で開催するべきだ!」
という国民の声が、圧倒的に多いことが2021年6月21日、各報道機関が発表した世論調査でわかった。
朝日新聞の調査によると、東京五輪の「中止」「再延期」は合わせて62%、今夏の「開催」に賛成は34%だが、「無観客で開催」が53%で、「観客数を制限して開く」(42%)を11ポイント上回った。
共同通信の調査でも、東京五輪の開催でコロナの拡大に「不安を感じている」と答えた人が86.7%に達し、「無観客で開催するべきだ」が40.3%、「中止すべきだ」が30.8%、「観客数を制限して開催」が27.2%だった。
東京五輪開催のお膝元の東京都では医師たちの怒りが噴き出している。東京都医師会や都内各地区の医師会、それに東京大学など大学病院の医師会が連名で、
「新型コロナウイルスの収束の見通しが立たない中で大会を開催するのであれば、通常医療が圧迫されないことを必須条件とし、無観客での開催を探るとともに、観客を入れた場合でも感染状況によっては無観客や中止にすることを考えるべきだ」
とする意見書を小池百合子都知事や橋本聖子・組織委会長、丸川珠代五輪担当相に6月18日に提出した。
しかし、菅義偉政権の暴走が止まらない。「観客の上限は1万人」と自分で6月17日に記者会見で述べていたのに、7月23日の開会式では2万人以上の観客を入れるというのだ。それも「五輪貴族」といわれる「IOCファミリー」と、スポンサー企業の招待客ら合計1万人以上を入れる必要があるからだというのだ。そして、割を食うのは一般の観客だという。
五輪貴族のためにプラチナチケットの観客が泣く
スポーツニッポン(6月21日付)「五輪開会式〈特例〉2万人入場『上級国民枠』は死守、6月21日の5者協議で決定」が、こう伝える。
「7月23日に東京・国立競技場(収容人数6万8000人)で行われる東京五輪の開会式について、大会組織委などが一般観客に大会関係者を合わせた全体の入場者数を2万人程度とする方向で調整している。組織委、政府、東京都、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)の代表者による5者協議が21日に開かれ、観客数の上限を政府のイベント規制方針に準じて会場定員の50%以内で最大1万人と決定する見通しだ」
特に焦点になっているのが、開会式で一般観客以外を「別枠」として入場を認めることだった。開会式には一般のチケット購入者9300人に加え、スポンサー企業の招待者など大会関係者1万500人、さらにセレモニー枠としてIOC関係者3600人、IPC関係者2000人、各国五輪委員会(NOC)の関係者1万5000人、人数はまだ不明だが各国要人とその随行員が数千人、そして国内では国会議員約710人らが入場する予定だ。
スポーツニッポンが続ける。
「当初計画では計2万7000人ほどにする予定だった。その後、それぞれの枠を縮減するなど調整。しかし、縮減幅は数千人にとどまり、さらなる絞り込み作業を進めることになった。ここで割を食いそうなのが一般のチケット購入者と、スポンサーの商品購入キャンペーンでチケットが当選した人やツアーの客ら一般客と呼べる人たちで、再抽選を行うことが検討されている」
ひどい話ではないか。ちゃんとチケットを買った人々が国内外の「五輪貴族」と「上級国民」のために排除されるのだ。スポーツニッポンがさらに続ける。
「スポンサー関係者とセレモニー枠は不可侵の領域だ。超プレミアチケットをゲットしたものの涙を飲まされる人は少なくとも数千人になりそうで、なんとも理不尽だ。セレモニー枠には『五輪ファミリー』と呼ばれるIOC関係者3600人のうち相当数が含まれている。組織委の武藤敏郎事務総長は5月下旬、来日人数削減状況を説明した際『(ファミリーは)大会運営に必要不可欠な人材』と説明。しかし、開会式の運営にファミリーがどれだけ『必要不可欠』か疑問が残る。5者協議は組織委の橋本聖子会長、丸川珠代五輪相、東京都の小池百合子知事、IOCのバッハ会長、IPCのパーソンズ会長が出席。国民の理解を得られるような説明をできるのか、注目される」
朝日新聞(6月21日付)「五輪観客、開会式は2万人検討 スポンサー招待客らの削減困難で」も、IOCファミリーとスポンサー招待客の「利権」を崩すことが至難の業であることを、こう伝える。
「東京五輪開会式の観客について、競技団体関係者やスポンサー招待客らを大幅に減らすのが難しいという。開会式の来場者は一般客や招待客らを合わせて約2万7000人を想定していた。招待客らを減らす調整を組織委などは進めている。しかし、関係者の大幅な削減は困難という。5者協議で観客上限の方針を決定する予定だが、関係者の扱いが決まらず、議論が継続する可能性がある」
数百万円のホテルを4万円で泊まる貴族たち
IOC関係者は3600人とされるが、この人々が配偶者を連れて来る可能性が高いことも問題をややこしくしている。こうまで日本政府や組織委を手こずらせる「五輪貴族」といわれる「IOCファミリー」がどういう人々か、おさらいしておこう。
毎日新聞(6月7日付)のコラム「風知草:開催へ、もう一つの条件」で、山田孝男・特別編集委員が「ファミリー」の実態をこう明かしている。
「国民がガマンし、選手も不自由だというのに、ファミリーは五つ星ホテルでVIP待遇という大会契約が放置されている。いびつな契約をきっぱり正し、国民を納得させてもらいたい。ファミリーの中核はIOC委員115人と通訳など随員、元委員、コンサルタント、国際競技団体の幹部など、『運営に不可欠な人材』というタテマエだが、IOCが『ゲスト』と認定する地名士も含まれる」
そのファミリーが信じられないほど傲慢極まりない人々なのだ。
「IOCの面々を『五倫貴族』と名付け、1980年代から追ってきた英国のジャーナリスト、アンドリュー・ジェニングスによれば、ファミリーは五倫貴族とその遊び仲間である国家元首、ヨーロッパの王族、各国の外交官、政府高官、スポンサー企業の重役...などだ。開催都市契約の大会運営要件によれば、大会組織員会は、ファミリーに五つ星または四つ星ホテルのスイートルーム(1泊数十万円か数百万円)を含む1400室を提供しなくてならない。IOCの予算上限は1泊400ドル(現在のレートで4.4万円)。差額は組織委が支払う。あらゆる差別を認めないはずの、オリンピック憲章と相いれない異様な不平等として注目を集めている」
小学館のニュースサイト「NEWSポストセブン」(5月11日付)「IOC幹部の特権 1泊300万円の宿に4万円で宿泊、差額は組織委が負担」
「日本政府は、入国する五輪関係者に対して『14日間の隔離』を免除するなど〈入国特権〉を与えているが、五輪関係者の特権はまだまだある。来日する各国選手は選手村と競技会場を行き来するだけの『バブル方式』が適用され、〈軟禁状態〉に置かれる。一方でバッハ会長をはじめIOC幹部たちは5つ星ホテルでの〈貴族生活〉が約束されている」
そして、2013年1月、東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会は、IOCに提出した14項目から成る「立候補ファイル」(開催のための契約書)には5つ星ホテルの宿泊費まで負担することをこう明記しているのだ。
「東京都は大会期間中に『The Okura Tokyo』『ANAインターコンチネンタル』『ザ・プリンス パークタワー東京』『グランドハイアット東京』の4ホテルの全室を貸し切り、IOC関係者に提供することを保証している。『The Okura Tokyo』には、国内最高額とされる1泊300万円のスイート(720平方メートル)があるが、IOC側の負担額の上限はどんな部屋でも1泊400ドル(現在・約4万4000円)までと定められ、差額は組織委が負担する」
なんと、数十、数百万円もする豪華ホテルの宿泊費のほとんどを東京五輪大会組織委が支払う契約だというのだ。何という不平等条約だろう。
J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部も、インターネット上で公開されている「立候補ファイル」を確認した。IOCメンバーたちが、5つ星ホテルのどんなスイートルームに泊まっても、1泊の上限3万5200円(当時の400ドル)しか払わなくてすむと書かれている=表1参照。
また、5つ星ホテルの4つをIOCメンバーが全室占拠しており、同じくスポンサー企業も5つ星ホテルをかなり確保しているが、特に組織委がスポンサー企業の招待客に宿泊費を支払うという条項は見当たらない=表2参照。IOCファミリーだけの特権なのだ。
(福田和郎)