混迷続く東芝、「過保護」の実態が明るみに 経産省が「物言う株主」に圧力

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   「東芝混迷」と何度書いてきたことか――。今度は、外部の弁護士による調査報告(以下、「外部調査」)で、2020年夏の株主総会にかけられた人事案をめぐって、東芝と経済産業省が一体となって一部の海外株主に不当な圧力をかけていたと指弾された。

   よくある企業経営陣vs株主の次元を超え、経産省を巻き込む事態に発展したことで、企業統治や産業政策が歪められたとの疑念は深まるばかりだ。

  • 東芝が助けを求めた先は……(写真は、東芝本社)
    東芝が助けを求めた先は……(写真は、東芝本社)
  • 東芝が助けを求めた先は……(写真は、東芝本社)

経産省という「駆け込み寺」

   2015年の不正会計以降、米原発子会社での巨額損失による経営危機、東証上場廃止を回避するための大型増資などを経て、旧村上ファンドの流れを汲む「エフィッシモ・キャピタル・マネジメント」(シンガポール)など、「物言う株主」との攻防が激化した。

   問題になったのは2020年7月の株主総会で、エフィッシモの提案した取締役の人事案だ。この人事案は否決されたものの、車谷暢昭(くるまたに・のぶあき)社長(当時)の取締役選任への賛成が57%台にとどまるなど、東芝は薄氷の運営を余儀なくされる。

   ところが、この時の議決をめぐる調査を求めるエフィッシモの要求が21年3月の臨時株主総会で可決され、エフィッシモが提案した3人の外部弁護士が調査を実施。6月10日に結果が発表された。

   この間、投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズによる買収提案、車谷氏の社長辞任と事態はめまぐるしく動いた。

   J-CASTニュース、会社ウォッチは、東芝問題を繰り返し取り上げてきた。

「選任賛成率、異例の『57.96%』 物言う株主に悩まされる東芝・車谷社長のかじ取り」(2020年8月25日付)
「東芝経営陣の正念場 『物言う株主』が揺さぶる『不利益な議決権行使』の実態解明のゆくえ」(2021年3月27日付)
「東芝2兆円買収 CVCキャピタルの提案は『混迷』から脱出するチャンスなのか?」(2021年3月27日付)
「社長辞任、CVC買収断念... 混迷の東芝はどこへ行くのか!?」(2021年4月24日付)

で詳報してきたので、これを踏まえて、今回の外部調査をみてみよう。

   弁護士3人は、東芝幹部が社内外とやりとりしたメールや文書を精査したほか、関係者の聞き取りも行った。

   中身を見る前に、問題の背景を確認しておくと、総会直前の20年5月8日に改正外国為替及び外国貿易法が施行されたことがある。安全保障面などで重要企業の外資による株取得規制が厳格化された。原子力発電や防衛装備も手掛ける東芝は、この法で「コア業種」に指定され、エフィッシモなど外資は議決権の行使のために事前審査が必要になった。東芝はこれを利用し、経産省に支援を求めたという構図だ。

経産省がエフィッシモにかけた圧力

   外部調査によると、20年7月の株主総会を巡り、東芝は同1月に公表したグループ企業による架空・循環取引に批判的な態度を強めていたエフィッシモや他の「物言う株主」の動きを警戒し、エフィッシモが提案した取締役候補への賛同が広がらないよう「(東芝が)改正外為法による規制、けん制を期待して、経産省に支援を要請」。経産省課長がエフィッシモ側に接触し、同法の外資規制違反による処分を示唆したという。

   外部調査は「東芝は経産省といわば一体になり、エフィッシモの株主提案権の行使を妨げようと画策した」と指摘している。

   また、外部調査は車谷氏が20年5月11日、当時官房長官だった菅義偉首相に経緯を説明したと推認されるほか、同7月27日に別の東芝幹部が菅氏との朝食会で、「物言う株主」への対処方針を説明したところ、菅氏から「『強引にやれば外為で捕まえられるんだろ?』などとコメントされていた」と記述した。菅氏は報告書発表の21年6月10日夕、記者団に「そんなことはありえません」と否定したが、「経産省内閣」とも称された安倍晋三政権時代のことでもあり、経産省の跋扈ぶりと、東芝への過保護ぶりを印象付けるエピソードといえるだろう。

   外部調査を受けた東芝経営陣の対応は、「恭順の意思表示」ととれるものだ。14日に社外取締役である永山治・取締役会議長(中外製薬名誉会長)が記者会見し、「経済産業省との関係を含め、企業統治や法令順守の意識が欠如していた」と外部調査の指摘を基本的に認め、「株主らに心配をおかけする事態となり、おわび申し上げます」と謝罪。そのうえで、13人の取締役選任議案のうち社外取締役2人について撤回し、執行役の幹部職員2人を総会の25日付で退任させると発表した。一度決めた役員人事を、総会直前に撤回するという極めて異例の対応だ。

   退任する社外取締役は監査委員会委員長の太田順司氏(元新日本製鉄常務)と、同委員の山内卓氏(元三井物産副社長)。20年7月の総会について問題はなかったとの結論を21年2月に出していた。退任させる幹部は豊原正恭副社長と加茂正治上席常務で、20年の総会をめぐり、経産省との交渉を担ったと名指しされていた。今回の外部調査を受け入れる以上、4人を切るほかなかったということだろう。

開き直る経産省

   永山氏はさらに、一連の混乱を招いたことについて、車谷氏の責任を指摘。第三者を交えた調査を改めて実施する意向を示した。また、定時株主総会後の一定の時期に、改めて臨時総会を開き、株主の意見を反映させた取締役を追加する考えも示した。

   永山氏は米経済紙「ウォールストリート・ジャーナル」とのインタビュー(6月17日付)で、問題解決のめどがつけば辞任を検討する考えを表明している。同氏については、取締役会議長として一連の対応の責任を問われる立場で、米議決権行使助言会社から取締役再任反対を推奨されていることもあり、総会での再任のため、いずれ辞任する姿勢を示す必要があったとの見方もある。

   東芝経営陣とは対照的に、開き直りともいえる強硬姿勢を見せるのが経産省だ。梶山弘志経産相は15日、安全保障上重要な企業である東芝に関与するのは「経産省として当然のことを行っているまでだ」と言明。外部調査について「事実関係に疑問を持たざるを得ない箇所がある」と強調するとともに、経産省課長と東芝幹部のメールなどによるやり取りについても、今後の調査は必要ないとの考えを示すなど、幕引きに躍起だ。

   ただ、東芝との関係の不明朗さは覆い難く、経済界からも「東芝の取締役会と経産省は説明責任を負う」(桜田謙悟・経済同友会代表幹事)との声も出ており、産業政策をめぐる議論は、今後に尾を引く可能性もある。

   株主総会はどうなるのか――。株主側ではエフィッシモが17日に声明を発表し、企業統治の抜本的な改善や株主への説明責任を求めたが、総会での取締役選任などへの賛否など踏み込んだ見解は明らかにしていない。ひとまず、外部調査で経営陣の問題がはっきりしたことで、「経産省との関係などで引き続き揺さぶりつつ、当面は経営陣の対応を見極めようという姿勢ではないか」(大手紙経済部デスク)との見方がある。であれば、定時株主総会は何とか乗り切れるとして、次の主戦場は臨時株主総会になる。取締役の補充で、エフィッシモなど物言う株主の意向が反映されるかなどが大きな焦点になる可能性がある。

   いずれにせよ、成長戦略を描き、成果を上げ、株主に還元していくことこそが物言う株主にも矛を収めてもらううえで必須条件になるのは言うまでもない。多くの株主のイライラはまだ続きそうだ。(ジャーナリスト 済田経夫)

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