6月は環境月間だ。環境を保全するためにどうしたらいいのか。最近、よく耳にする「SDGs(持続可能な開発目標)」とは何なのか? 6月は環境に関する本を紹介しよう。
石油の大量消費が現代の社会を支えている。しかし、地球温暖化対策が進み、いずれ石油の時代が終焉すると予測しているのが、本書「『石油』の終わり」である。世界の地政学の動向を紹介しながら、石油を土台とする20世紀型秩序の破壊と再生を描いている。
「『石油』の終わり エネルギー大転換」(松尾博文著)日本経済新聞出版社
変わる「再生可能エネルギーは割高」という常識
著者の松尾博文さんは、日本経済新聞編集委員兼論説委員。テヘラン支局、カイロ支局、ドバイ支局に駐在し、湾岸戦争やイラク戦争など中東の動乱や国際エネルギー情勢を取材した経験を持つ。現地にいた新聞記者らしい分析が随所に目立つ。
タイトルは、20年以上にわたってサウジアラビアの石油相を務めたアハメド・ザキ・ヤマニ氏の次の言葉から取ったという。
「石器時代は石がなくなったから終わったのではない。(鉄や青銅器など)石に代わる新しい技術が生まれたから終わった。石油も同じだ」
「第1章 エネルギー大転換が始まった」において、エネルギー転換が進み、石油の消費はいずれ頭打ちになるとの「需要ピーク論」を紹介している。石油メジャーのトップが早ければ10年後には石油需要が減少に転じる可能性に言及した。
その一方、米エネルギー省などは少なくとも2035年までは増え続けると予測している。電気自動車(EV)の実力と普及をどう見るかで評価が分かれるようだ。
長期的には、エネルギー源の勝者は再生可能エネルギーで、敗者は石炭だ、としている。地球環境問題というキーワードがイノベーションを後押しし、石油や石炭の大量消費を前提とする20世紀型のエネルギー秩序からのパラダイムシフトを促すというのだ。
「再生可能エネルギーは割高」という常識も変わりつつある。データを示し、太陽光や風力を見る限り、発電コストは火力発電と同等か、それ以上の競争力を持つようになっている、と書いている。
また、マネーによる選別も無視できない、としている。経済協力開発機構(OECD)は、加盟国の石炭火力発電所の輸出に対し、公的金融機関による制限を行うことを決めた。石炭ビジネスへの関与が経営のリスクと見なされる動きを受け、海外での石炭発電事業から撤退する動きもある。