漱石の手紙に学ぶ断り方
ここで漱石の2つの手紙を紹介します。物言いがよくわかる手紙です。一歩間違えれば人間関係にヒビが入りそうな文面ですが、みなさまはどのように感じましたか。
借してあげる金はない
1909(明治42年8月3日) 飯田政良あて
御手紙拝見。
折角だけれども今借して上げる金はない。家賃なんか構やしないから放って置き給え。僕の親類に不幸があって、それの葬式その他の費用を少し弁じてやった。今はうちには何にもない。僕の紙入にあれば上げるがそれもからだ。君の原稿を本屋が延ばす如く、君も家賃を延ばし玉え。愚図々々いったら、取れた時上げるより外に致し方がありませんと取り合わずに置き給え。君が悪いのじゃないから構わんじゃないか。草々。
八月一日 夏目金之助
余は平凡尋常の人
1910(明治43年12月13日) 小宮豊隆あて
啓。だれと酒を飲んだとか、だれと芸者をあげたとかいふことは一々報知して貰はないでも好い。その末に悲しいとか、済まないとかいう事はなおさら書いてもらわないで可い。余は平凡尋常の人である。凡ての出来事を、平凡尋常の出来事として手紙に書いてくれる人を好む。早々。
本書は、文豪ファン、文豪好きの方向けに、12人の文豪が書き残した手紙を「断、謝、離」の3つに分け、文豪たちの本音を紐解きつつ、彼らの断り方、謝り方、別(離)れ方に学ぶという本です。ますます文豪が好きになることでしょう。(尾藤克之)