夫と正論を戦わせるより子どもを巻き込もう
――なるほど。こういうタイプの夫には、正論をぶつけあっても生産性がない。それより、子どもたちも巻き込んで家族の課題として話し合ったほうが、解決策が見つかりやすいというわけですね。
川上さん「そのとおりです。家族とは、生活する中で互いに影響しあう存在です。家族の中の誰かの願いをかなえることは、その人一人だけの課題ではなく、家族全員で共有し解決すべき〈家族の課題〉なのだと思います。〈家族の課題〉を解決するために、ともに知恵を出し合う方向で相談すれば、夫婦の目線が合わせやすくなるでしょう。諸手を挙げて賛成とまではいかなくても、夫婦が互いに納得できる落としどころを見つけやすくなるのではないでしょうか」
――今回の海外勤務の話は、夫なら何の問題もなく海外に行くであろうに、妻がこれほど悩むのは不公平だという意見が多くありました。
川上さん「私も個人的に、不公平で性別役割分業ありきの考え方だと感じます。しかし、夫婦の間で『何が正しいか』を議論しても、感情が先走ったり、水掛け論になったりすることのほうが多いものです。それぞれのご夫婦にはご夫婦ごとに異なる関係性があるので、共通の正解があるとは思いません。ただ、互いの意思や価値観を尊重しあうことは大切です。だからこそ、まずは投稿者さんご自身の考えを伝えて夫に知ってもらい、逆に夫の考えにも耳を傾けることから始める必要があると思います。投稿者さんご自身も、これまで気づかなかった夫の気持ちや言い分を聞くことができるかもしれません」
――川上さんなら、ズバリこの投稿者にどうアドバイスしますか。
川上さん「極端な想定かもしれませんが、仮に投稿者さんが海外赴任をあきらめて日本に残ったとしても、急な病気やケガなどで長期入院せざるを得なくなり、投稿者さんが家庭にいない状況が発生してしまうことだってありえるかもしれません。その時お子さんは、その状況を受け入れたうえで受験と向き合わなければならなくなります。海外赴任のチャンスが再び巡ってくるかどうかも不明です。世界中がコロナ禍に見舞われる想定外の事態が、今後も起こらないとも限りません。
人生何が起きるかわからない中で、ご自身が犠牲になることが絶対に正しいと言い切れるものではありません。ご自身の中に海外赴任に対する明確な意思があるならば、ご自身の意思も尊重していただいたうえで、家族全員が納得できる形をご家族と共に模索していただきたいと思います」
――本当に海外に行きたい気持ちがあるのなら、思い切って行きなさい!ということですね。
川上さん「はい。お子さんの受験を心配する気持ちは、親として当然だと思います。しかし、そのために海外赴任の夢をあきらめたら、逆にお子さんに過度なプレッシャーを与えてしまう可能性もあります。もし受験が望ましい結果でなかったとしたら、お子さんが自分自身を必要以上に責めてしまう心配もあります。
人生100年時代と言われる中で、仕事をすることの意味合いが変わってきています。生涯を通して人生をより充実させるための『生きがい』としての意味合いがより重要になってくるでしょう。家族の理解と協力によって、海外赴任の経験を積むことができたら、その経験は投稿者さんにとって、シニア後の未来を含めた人生全般をより充実させる糧となる可能性も秘めていると言えるのではないでしょうか」
(福田和郎)