地面師詐欺事件のあった積水ハウスで何が起きていたのか?

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アラートは9回鳴ったが、止まらなかった取引

   営業マンとして優秀だった2人の後継候補が亡くなり、2008年、阿部氏は社長に抜てきされる。「かつては親子のような関係だった」とも書いている。CEO(経営最高責任者)になった和田氏は国際事業のトップ営業に乗り出す。阿部氏は国内の留守役だったのでは、と藤岡さんはみている。

   和田氏は国際事業をわずか2年で黒字化する。売上も約3900億円まで急伸した。だが、財務部門の責任者だった副社長とは方針に大きな溝があり、クーデターの「黒幕」は、社長の阿部氏ではなく、この副社長の名を挙げる幹部が多かったという。

   ところで地面師事件に戻ると、調査報告書は取引から撤退を促すアラートは都合9回も鳴っていたという。本物の地主から「私は取引をしていない」という内容証明郵便が送られてきたのに、「怪文書」扱いし、地主の本人確認をしていなかった。中間会社がペーパーカンパニーだったなどだ。

   海喜館の土地取引は阿部氏の「社長案件」として現場は捉え、異様なスピードで進められたという。この土地はマンション事業として購入されたが、積水ハウスの中でマンション事業は傍流で、売上高も全体の3%に過ぎなかった。和田氏の影響があまり及んでいないマンション事業で阿部氏は力を伸ばそうとしたのでは、と関係者は見ている。

   地主と接触しないうちに、仲介者だけの話で取引を信用し、稟議書を完成させ、社長が視察。社長決裁をもらい、売買契約を結んだのは、最初の情報入手からひと月にも満たなかった。

   調査報告書は異常なスピードで進んだ背景を、こう説明している。

「不動産部長が通常とは異なるステップで稟議を進めた根拠は、マンション事業本部長からの至急要請があったことによるが、社長が現場視察を済ませていると聞かされていることが影響している」

   こうした事件への社長責任が明記された調査報告書があったが故に、責任を問われた社長が会長を返り討ちしたのが、クーデターの本質である。

   クーデターは「隠蔽のための解任」と映り、海外の株主や専門家の反発を買った。積水ハウスの海外の法人株主は約3割を占める。昨年(2020年)の株主総会でも取締役の選任案に3割もの反対票が投じられた。今も厳しい目が注がれている。

   住宅は人生で最も高い買い物だと言われる。あまりうかがい知れない住宅メーカーの内部を描いたルポとしても興味深く読むことができる。そもそも積水ハウスの源流は、日本窒素肥料株式会社(現チッソ)であり、敗戦と財閥解体で「日窒コンツェルン」は消滅。チッソ、積水化学工業、旭化成などに分派していった歴史も初めて知った。

「保身 積水ハウス、クーデターの真相」
藤岡雅著
角川書店
2090円(税込)

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