地面師詐欺事件のあった積水ハウスで何が起きていたのか?

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   住宅メーカー、積水ハウスが2017年6月に「地面師」グループから55億5900万円を騙し取られた事件があった。なぜ、見抜けなかったのかと当時、疑問に思った人も多いだろう。

   本書「保身 積水ハウス、クーデターの真相」は、その事件の原因究明の裏で、同社で起きた「クーデター」の真相に迫ったものだ。「解任」「事件」「不正」「暗闘」「隠蔽」「腐敗」など、おどろおどろしい章タイトルが並ぶ。企業のガバナンスに関心のある人に勧めたい本である。

「保身 積水ハウス、クーデターの真相」(藤岡雅著)角川書店
  • JR五反田駅から徒歩5分、かつて目黒川沿いの旅館「海喜館」があった(2017年8月撮影)
    JR五反田駅から徒歩5分、かつて目黒川沿いの旅館「海喜館」があった(2017年8月撮影)
  • JR五反田駅から徒歩5分、かつて目黒川沿いの旅館「海喜館」があった(2017年8月撮影)

2兆円企業の会長が解任された

   まず、地面師詐欺事件から振り返ろう。積水ハウスの地面師詐欺被害は、2017年6月9日、東京法務局に東京・西五反田にある海喜館の土地の「所有権移転登記」が却下されたことで発覚した。積水ハウスは警察に通報し、発覚から2か月後に被害を公表した。2018年10月以降、17人が逮捕された。

   同社の調査対策委員会は、以下のような極めて厳しい文言で、詐欺被害を招いた経営陣を批判している。

「本件は、不動産を専業とする一部上場企業が、55億5千万円という。史上最大の地面師詐欺被害にあったということである。また、被害金が裏社会に流れたと推定される。大手金融機関が振込詐欺で甚大な被害を受けるのと同じで、通常起こりえないことであり、絶対にあってはならないことである」

   この調査報告書が提出された取締役会(2018年1月24日)で、阿部俊則社長は責任を一切問われず会長に就任、和田勇会長だけが退任した。円満な世代交代のように演出されたが、それから3週間後、日本経済新聞の電子版が「実は『解任』だった...積水ハウスの会長交代」とスクープ。「週刊現代」記者の藤岡雅さんが動き出す。すぐに関西に住む関係者を直撃、和田氏と阿部氏を軸とする本書の長い取材が始まった。

   売上高2兆円に成長した住宅メーカーの隆盛史から説き起こしている。和田氏が入社したのは創業5年目の1965年、まだ売上高が28億円の頃だ。名古屋営業所に赴任した和田氏は、凄まじい勢いで営業した。

   入社3年目には販売成績で全国トップに立った。4か月で40棟の成約に成功したという。5年目には名古屋東営業所長に。本社に内緒で始めた鉄骨賃貸事業も実績を上げ、「シャーメゾン」の名称でその後全国展開し、売上高の2割を占める中核事業になった。順調に出世し、1998年に社長に就任した。「積水ハウス史上初めての生え抜き社長は、自他共に認める営業のエースだった」。

   これに対し、1975年に入社した阿部氏には「目を見張る実績を残したという話は出てこない」。規模の小さい東北営業本部が長かったからだ。本部長だった頃、契約の水増しが常態化していたという元役員の証言を紹介している。

「当時、調べたところ、東北営業本部のほぼすべての支店で契約の水増しがありました。水増しをしとったのは東北だけやない。でも東北のやり方はえげつなかった」

   東北のプレハブ工場から資材が出荷された形になる。でも実際には架空の契約だから、資材の行き場所はない。夏までに出荷したはずの資材が、冬になっても工場に放置されて、雪をかぶっていたという。

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