新型コロナウイルスの感染拡大が長期化するなかで、早期・希望退職者を募集する上場企業が増え、前年を上回るペースと規模になっている。
2021年6月初旬までの募集人数は、前年より3か月ほど早く1万人を超えた。業績低迷が長期化する企業では今後、さらに人員削減が進む恐れがある。東京商工リサーチが6月4日に発表した。
3社が1000人以上を募集
東京商工リサーチによると、2021年の上場企業の早期・希望退職者の募集人数は、1万225人にのぼった。前年同日(6104人)の約1.7倍だ。前年に1万人を超えたのは9月14日で、約3か月早かった。
早期・希望退職者の募集を実施した企業は、6月3日までに50社で、前年同日(33社)より17社多かった。業種別では、アパレル・繊維製品の8社が最多だった。19年10月の消費増税をきっかけとした落ち込みから抜けきらないうちに、コロナ禍の外出自粛や在宅勤務の広がりで販売低迷に直面した。次いで、事業集約が進む電気機器が7社、観光4社、航空や鉄道を含む運送が4社、外食4社と続いた。
観光関連の上場企業では2011年以来10年ぶり、運送では2013年以来8年ぶりの募集になった。
早期・希望退職者を募集した50社の通期利益をみると、約7割の34社が最終赤字。観光や運送、外食の実施企業は全社が赤字。アパレル・繊維製品では8社のうち7社が赤字だった。
募集人数が最も多かったのは、日本たばこ産業(JT)で、パート、子会社従業員を合わせて2950人。次いで、近畿日本ツーリストグループを統括するKNT-CTホールディングスが1376人、建材・住宅設備大手LIXIL(リクシル)が1200人と、1000人以上の大型募集が3社あった。募集人数100人以下は27件(54.0%)で半数を超えた。
コロナ禍では現在、全国各地でワクチン接種が急ピッチで進められているが、先進国の中ではペースが遅い。緊急事態宣言などによる営業活動の制限が続いており、今後も多くの業種で業績回復には時間を要する。
雇用調整助成金の特例措置も、一部地域を除き規模縮小の段階に入っているものの、上場企業の早期・希望退職募集は、業績不振が長引く労働集約型企業を中心に、下半期に加速する可能性もある。