「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
6月14日発売の「週刊東洋経済」(2021年6月19日号)は、「会社四季報」夏号先取りと題して、「激動相場に勝つ! 株の道場」という特集を組んでいる。パート1では、増収増益が見込まれる今期業績に基づく「相場」編、パート2では「会社四季報」などを利用した「実践」編と手厚い内容だ。
個人投資家の7割弱が運用成績プラス
株価は上に行くのか、下に行くのか――。強気派と慎重派それぞれの相場予想を紹介している。強気派のゴールドマン・サックス証券 日本株ストラテジストの建部和礼氏は、コロナワクチンの接種が進み、出遅れていた日本株のキャッチアップが起きると見込んでいる。
日経平均株価は3か月後に3万500円程度、半年後に3万1500円程度、1年後に3万2500円程度へと上昇すると予想。企業の収益予想も今後四半期ごとに徐々に上振れしていくと見ており、企業収益の改善を反映して、日経平均株価も徐々に上昇するというのだ。
これに対して、慎重派の岡三証券チーフストラテジストの松本史雄氏は、「外国人投資家の売り仕掛けで夏場に急落も」と警告する。とはいえ、基本的に経済の回復基調は続き、日経平均株価は年明けになれば上昇基調に戻るとも。「夏場の急落や、年末にかけての下落局面は格好の買い場になるのかもしれない」と語っている。
個人投資家3000人にインターネットを通じて、同誌が行った「投資に関するアンケート調査」の結果も興味深い。投資を始めてからのパフォーマンスを聞くと、7割弱の人の運用成績がプラスだった。2倍以上になった人も約1割いた。また株式資産1億円以上の「億り人」も105人いた。
「コロナ禍という通常ではない状態の中で、国策銘柄をうまく選定できた」、「コロナショックで底の見えない怖さを感じ、狼狽売りをして大損してしまった」などの成功談、失敗談に共感する人も多いだろう。
「実践」編では、「会社四季報」元編集長の山本隆行氏が株式投資の必勝法を語っている。株価が動くポイントは3つ。業績、テーマ、需給の3要素だ。山本氏はテーマ探しこそが株式投資の醍醐味だという。女子ゴルフの海外メジャーで日本選手が優勝すると、ゴルフダイジェスト・オンラインの株価が10%以上も急騰した例を挙げている。「まずは小遣いの範囲で買える株価の安い小型株を、想像を膨らませて買ってみるとよい。経験こそが株式投資で成功する近道だ」という。
会員制投資情報誌「株式ウイークリー」編集長の山川清弘氏は、「3年で株価2倍を狙う少額株」を推奨している。注目銘柄として、インターネットイニシアティブ、マクニカ・富士エレホールディングス、アイシン、ANAホールディングスを挙げている。
「会社四季報」を毎号最初から最後まで、約2000ページすべて読む。そんな経験を20年以上続けてきた複眼経済塾の渡辺清二塾長が、株価が10倍以上になる「テンバガー」候補の探し方を教えている。
最近は、「感性」銘柄が重視されるようになってきたそうだ。地球温暖化対策やSDGsに取り組む企業に機関投資家も注目しているという。具体的に「会社四季報」春号を基に5銘柄を挙げている。
5大国策と関連銘柄の記事も参考になるだろう。半導体では東京エレクトロン、子育て支援ではベネッセホールディングス、リサイクルでは日立造船などが挙げられている。国策のテーマは、国の予算や成長戦略会議などから知ることができる。毎日のニュースの中にヒントは常にあるのだ。
「脱炭素」のカギを握る金属
「週刊エコノミスト」(2021年6月22日号)の特集は、「EVと再エネ 儲かる金属」。「脱炭素」に向けて世界が走り始めた中で、そのカギを握る金属が注目されているというのだ。
電気自動車(EV)と再生可能エネルギーには、大量のレアメタル(希少金属)とレアアース(希土類)が使われるからだ。「EV100万台を生産するには、リチウムイオン電池の主原料であるリチウムで年7150トン、コバルトで年1万1000トン必要。この量は2018年の日本の内需に匹敵する」という資源エネルギー庁の試算を紹介している。
EV1台に使われる電池はスマホ1万台分、洋上風力の大型蓄電池はEV数万台分の電池が必要だ。リチウムはチリとアルゼンチン、コバルトはアフリカのコンゴ民主共和国など特定の国に偏在しているのが問題になる。日米欧中で電池の争奪戦が起こりそうだという。
リチウムイオン電池のリサイクルでも日本は遅れを取りそうだ。EVの普及が遅れ、市場規模が小さいからだ。
一方、レアアースを使わない技術、代替品にも触れている。大同特殊鋼の子会社ダイドー電子がレアアースを全く使わない「重希土類完全フリーネオジム磁石」を開発。世界で初めてハイブリッド車のモーター向けに実用化され、ホンダのフリードやインサイトに採用されている。トヨタ、昭和電工、日立製作所などの取り組みも紹介している。
また、日本近海で採掘可能なメタンハイドレートが、水素の原料として注目されているという。だが、利用するには、CCS(二酸化炭素の回収・貯留)が必要だ。商用化に向けて政策的な後押しが必要だ、としている。
レアメタルなどが特定の国に偏在している世界地図を見ると、いま盛んに叫ばれているEVと再エネが、危うい綱渡りの上に成り立っていることがわかる。
「ダイヤモンド」は脱炭素での撤退戦で競う商社を特集
「週刊ダイヤモンド」(2021年6月19日号)の第1特集は、「商社非常事態宣言」。2週前の「週刊東洋経済」も商社を特集していたので、いま商社で何かが起きているのだろう。
2021年3月期決算で、伊藤忠商事が5年ぶりに首位となる交代劇が起きた。トップを維持してきた三菱商事は業界4位まで順位を落とした。特集では商社が直面する7つのリスクを挙げている。
その一つが「脱炭素での撤退戦」だ。商社にとって、海外の石炭権益や石炭火力発電事業は収益の源泉だった。だが、世界的な脱炭素の流れが到来し、撤退圧力が強まっている。伊藤忠商事がインドネシアで建設中の石炭火力発電所を運転開始直後に売却する方針を固めたことを詳しく報じている。
5大商社の中で、とりわけ石炭火力の比率が高いのが住友商事だ。2040年代後半に石炭火力から撤退する方針を明らかにしたが、進行中のプロジェクトも多い。「石炭火力という足かせを多く抱えている他の商社は、撤退戦の戦績次第で、伊藤忠との差が開いてしまうばかりだろう」と書いている。
二つ目のリスクが「人権リスク」だ。ミャンマーで軍事政権に近いビジネスが「人権侵害に加担している」と批判され、さらに中露、タイなどで第二のミャンマー問題が浮上しているというのだ。
このほかにも「緊迫する米中対立」「止まらない若手流出」「看板部門の凋落」「コロナ禍で明暗」「次の稼ぎ頭不在」というリスクを挙げている。
パート2では、人事制度刷新の大ブームが各社に到来している、と伝えている。キーワードが「若手の抜てき」だ。住友商事では最短で管理職になれる年次を8年から5年に短縮した。また、双日は双日プロフェッショナルという新会社を設立、35歳以上で副業や独立OKという制度を始めた。
就職人気ランキングでは上位を占める商社だが、業務や働き方が大きく変わろうとしている、それを印象づける内容だ。
どうなる楽天! 携帯電話への参入は失敗だった?
第2特集のテーマは「楽天 底なしの赤字」。携帯電話事業の巨額赤字で財務が悪化した楽天グループが頼ったのは、日本政府が過半する株式を握る日本郵政だった。官製の救済シナリオに死角はないのかを検証している。
日本郵政が投入した1500億円は全額が携帯基地局向けに充てられる。楽天と日本郵政下の日本郵便との物流事業の提携が深まれば、追加の投資が求められるものと見ている。
その物流事業だが、大消費地である首都圏や近畿圏でアマゾンは、日本郵便と組む楽天を寄せ付けない。「携帯電話の基地局整備で兆円単位の投資資金が必要な楽天は、物流投資に巨額の資金を回す余裕がないのは明白。となれば、すでに1500億円を楽天に出資した日本郵政の追加投資負担への懸念は絶えない」とし、「両者の間には、不穏な空気が流れている」とまで書いている。
さらに、ソフトバンクが「盗まれた情報で基地局整備を加速している」と主張し、楽天を提訴。基地局の廃棄が認められれば、深刻な事態になる。内憂外患の楽天グループの構造にメスを入れている。楽天ユーザーにとって見逃せない特集だ。(渡辺淳悦)