【6月は環境月間】日本のエネルギーのカギは天然ガスだ!

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   6月は環境月間だ。環境を保全するためにどうしたらいいのか。最近、よく耳にする「SDGs(持続可能な開発目標)」とは何なのか? 6月は環境に関する本を紹介しよう。

   3.11の東日本大震災で、東京電力の福島第一原子力発電所が最大級の放射能漏れ事故を起こし、原発の「安全神話」が崩壊した。日本の将来のエネルギー選択について、原子力発電の擁護派と再生可能エネルギーの推進派のあいだで、イデオロギー的な論争が続いている。

   本書「エネルギー論争の盲点」は、その間の第3の道こそ、いくぶんベターな現実的な選択肢だと主張する。そのカギとなるのが、天然ガスの積極活用と、エネルギー源と地域の分散化、多様化だというのである。

「エネルギー論争の盲点」(石井彰著)NHK出版
  • 福島第一原子力発電所の事故から10年が過ぎた……(福島県いわき市周辺。2011年)
    福島第一原子力発電所の事故から10年が過ぎた……(福島県いわき市周辺。2011年)
  • 福島第一原子力発電所の事故から10年が過ぎた……(福島県いわき市周辺。2011年)

再生可能エネルギーのコストは極めて高い

   著者の石井彰さんは、エネルギー・アナリスト。エネルギー・環境問題研究所代表。日本経済新聞社記者を経て、石油公団で資源開発に携わり、石油・天然ガスの国際動向調査分析に従事した。

   最初に、エネルギーとは何かを説明している。「エネルギー=電力」ではない。エネルギーとは「人間の生存や活動に役立つ熱源と動力源」と定義している。モノの精算に全エネルギー消費の約半分があてられている。電力という形で消費しているエネルギー量は、エネルギー消費全体の2割程度だという。

   石井さんは、原発を容認するか、廃絶して再生可能エネルギーに代替するかの二項対立の図式は不毛だという。「石油はもうすぐ枯渇する」のウソなどを検証している。

   石油をはじめとする化石燃料の歴史は、「オオカミ少年の歴史」でもあるという。19世紀の英国では、「20世紀はじめに石炭資源は枯渇する」という悲観論があったが、英国には現在も良質のものが大量に埋蔵している。同じことは米国の石油についても言われた。また、1970年代にも、「石油はあと30年で枯渇する」と言われた。

   今後、仮に全く新規の油田発見や生産技術革新による埋蔵量の追加がなくても、現在の生産量と価格であと1世紀近くは生産可能な資源量があるという。

   天然ガスについては、「シェールガス革命」と呼ばれる生産技術の革新により、世界の天然ガス資源量評価は一挙に従来の埋蔵量の6倍以上になり、現在の生産量であと400年以上は維持可能になった。もちろん、化石燃料は無尽蔵ではないが、これまでに人類が使用してしまった量は、もともと地下に存在していた化石燃料総量の数%に過ぎないそうだ。

   参考になると思ったデータがいくつかある。米国エネルギー省エネルギー情報局が2009年に公表した、米国での新規発電所の具体的な電源別コスト比較である。1000kW時のコスト(ドル)は、石炭(従来型)が100.4、天然ガス(新型コンバインドサイクル式)79.3、新型原子力119.0、風力149.3、洋上風力191.1、太陽光396.1、水力119.9となっている。

   石油火力発電は、すでに日本をはじめとして、世界的に発電にはほとんど使用されていないので、載っていない。再生可能エネルギーのコストが極めて高いことがわかる。

石炭火力から天然ガスへの切り替えで効果大

   政策的に太陽光発電を世界で一番積極的に導入したドイツだが、ドイツの全発電量の1%に過ぎないという。ドイツの発電量の16%は再生可能エネルギーとなっているが、その2割は水力発電で、あとは風力発電が4割、バイオマスが3割、太陽光発電は1割未満だ。

   日本でも水力発電が全発電量の約8%を占め、再生可能エネルギー全体でほぼ10%を占めているので、ドイツとの実質的な差は、ローテクのバイオマス利用と風力発電の導入量の差ということになる、と石井さんは指摘する。

   さらに、ドイツは二酸化炭素発生量の多い石炭火力が多く、近隣国から電気を輸入できるという事情がある。「ドイツの再生可能エネルギーの積極導入策は、石炭とフランスの原子力というお釈迦様の手のひらで遊んでいる孫悟空のようなもの」と手厳しい。

   一長一短ある各エネルギー源を、いかに上手に組み合わせて、経済性・安定性の維持と環境負荷軽減と放射能汚染リスクの最小化を図るかしかない、としている。

   日本は原子力推進政策が長かったため、天然ガス比率が先進諸国の中で特異的に低い。2000年頃、サハリン北部の天然ガスをパイプラインで日本に輸送する計画があったが、頓挫した経緯を本書で知り、驚いた。日本の電力業界が反対し、別のガス田の天然ガスをLNGとしてタンカーで輸入する形で決着した。石井さんは電力自由化への抵抗と原子力推進がパイプラインが頓挫した真の理由だった、と推測する。

   最後に、どのような形がいいのか、述べている。消費者側の省エネよりも、エネルギー供給側の省エネが最も有望だという。従来型の石炭火力発電を最新型の天然ガス・コンバインドサイクル式発電に切り替えると、発電効率は5割上がり、さらに二酸化炭素排出量は何と3分の2も減る。最小のコストと最短の時間で二酸化炭素排出量の大幅削減が可能なのだ。

   原子力の代替は天然ガスと再生可能エネルギーの組み合わせで行うというのが結論だ。再生可能エネルギーの中では、コストが比較的安い風力発電を優先すべきだ、としている。

「とりあえず、安く、早く、効果が大きい方法をやり、その後でなお不足する分を、より高コストで難しい方策で補填すべきなのである」

   また、原子力についても、「危険で高いもの」という前提で、何とか折り合いをつけてやっていくしかない、と書いている。

   白か黒かの二項対立が目立つ、日本のエネルギー論争だが、エネルギーの本質と歴史から説き起こした本書のような議論が求められている。(渡辺淳悦)

「エネルギー論争の盲点」
石井彰著
NHK出版
814円(税込)

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