石炭火力から天然ガスへの切り替えで効果大
政策的に太陽光発電を世界で一番積極的に導入したドイツだが、ドイツの全発電量の1%に過ぎないという。ドイツの発電量の16%は再生可能エネルギーとなっているが、その2割は水力発電で、あとは風力発電が4割、バイオマスが3割、太陽光発電は1割未満だ。
日本でも水力発電が全発電量の約8%を占め、再生可能エネルギー全体でほぼ10%を占めているので、ドイツとの実質的な差は、ローテクのバイオマス利用と風力発電の導入量の差ということになる、と石井さんは指摘する。
さらに、ドイツは二酸化炭素発生量の多い石炭火力が多く、近隣国から電気を輸入できるという事情がある。「ドイツの再生可能エネルギーの積極導入策は、石炭とフランスの原子力というお釈迦様の手のひらで遊んでいる孫悟空のようなもの」と手厳しい。
一長一短ある各エネルギー源を、いかに上手に組み合わせて、経済性・安定性の維持と環境負荷軽減と放射能汚染リスクの最小化を図るかしかない、としている。
日本は原子力推進政策が長かったため、天然ガス比率が先進諸国の中で特異的に低い。2000年頃、サハリン北部の天然ガスをパイプラインで日本に輸送する計画があったが、頓挫した経緯を本書で知り、驚いた。日本の電力業界が反対し、別のガス田の天然ガスをLNGとしてタンカーで輸入する形で決着した。石井さんは電力自由化への抵抗と原子力推進がパイプラインが頓挫した真の理由だった、と推測する。
最後に、どのような形がいいのか、述べている。消費者側の省エネよりも、エネルギー供給側の省エネが最も有望だという。従来型の石炭火力発電を最新型の天然ガス・コンバインドサイクル式発電に切り替えると、発電効率は5割上がり、さらに二酸化炭素排出量は何と3分の2も減る。最小のコストと最短の時間で二酸化炭素排出量の大幅削減が可能なのだ。
原子力の代替は天然ガスと再生可能エネルギーの組み合わせで行うというのが結論だ。再生可能エネルギーの中では、コストが比較的安い風力発電を優先すべきだ、としている。
「とりあえず、安く、早く、効果が大きい方法をやり、その後でなお不足する分を、より高コストで難しい方策で補填すべきなのである」
また、原子力についても、「危険で高いもの」という前提で、何とか折り合いをつけてやっていくしかない、と書いている。
白か黒かの二項対立が目立つ、日本のエネルギー論争だが、エネルギーの本質と歴史から説き起こした本書のような議論が求められている。(渡辺淳悦)
「エネルギー論争の盲点」
石井彰著
NHK出版
814円(税込)