はじめまして、今回から「企業分析バトル」に参加する明治大学の中村瑞希と申します。
投資経験は1年ほどで、コロナショックを受けた世界各国の大規模な金融緩和により株式市場が非常に好調であったなか、ちょうど投資をはじめることができたという望外の幸運に恵まれました。
しかし、2021年の株式相場は、2月からの米国の長期金利の急激な上昇以降、昨年とは雰囲気ががらりと変わっています。端的に言えば、難しい相場になっていると感じています。
そのため投資の判断においては、その企業自体のよしあしだけでなく、「なぜ今その銘柄なのか」ということを重視したいと考えています。
浅学菲才の身であり、文章も稚拙ではありますが、これから頑張っていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
産業のコメ釜に蜘蛛の巣懸きて
さて初回は、半導体関連装置製造業のレーザーテック(6920)を購入します。
理由はいくつかあるのですが、まずなによりも目下の半導体不足の状況があります。
「半導体不足により、生産計画を見直し/減益の見通し」というニュースは最近よく聞きますよね。 まさに「産業のコメ」を炊く甑に蜘蛛の巣が張っている状態です。
これを受け、TSMCやサムスン電子、インテルと言った、ファウンドリ(半導体の製造工程を専門的に扱う)やIDM(半導体の設計から製造、販売までを統合的に扱う)の大手が続々と数兆円規模の生産設備への投資を発表しました。
◆ 参考リンク
(1)「Debby Wu『台湾のTSMCが11兆円投資、今後3年で -半導体の生産能力強化』(Bloomberg 2021年4月1日付)
(2)「サムスン、韓国で半導体新棟建設 2兆円超投資」(日本経済新聞 2021年5月13日付)
(3)Ian King「米インテル、半導体生産で大規模投資へ -製造装置関連株が急伸」(Bloomberg 2021年3月24日付)
このこともあり、半導体関連銘柄で構成されるSOX指数(フィラデルフィア半導体指数)は、3月から4月にかけて堅調に推移しました。
ただし、5月に入るころには大きく下落しており、「株価は織り込まれる」ということを考えれば、半導体不足相場はいったん終了したと言えるのではないでしょうか。
半導体はもう一度相場をつくるか
では、それなのになぜ今、半導体なのか――。詳しく説明します。
理由の一つ目は、相場の循環です。2月に米国の長期金利が急上昇を見せ、それに合わせてハイテク銘柄は大きく下落しました。それ以降、コロナ禍からの回復を見越した銘柄に資金が移動したように思えます。たとえば、景気回復に敏感な銅先物や銅鉱株は大きな相場をつくりました。
しかし、その銅の相場も5月中頃に史上最高値をつけて以来、いったん落ち着いています。これは、CPI(消費者物価指数)などの各種経済指標が出揃ったことにより、いわゆるセル・ザ・ファクト(=バイ・ザ・ファクト。事実に基づいて売買すること。投資格言の「噂で買って事実で売る」)になったものと思われます。
このことにより、コロナ禍からの回復を見越した相場はひと区切りがつき、新しい循環に入ったと判断しました。つまり、ハイテク銘柄のターンがまたやってくることで、半導体も新しい相場を作るのではないかと考えました。
理由の二つ目は、市場が金融緩和の縮小(テーパリング)を織り込み始めたことです。2020年からのハイテク銘柄を中心とした相場は、とりもなおさず金融緩和というアトラスの肩にかかっています。肩をすくめられてはひとたまりもありません。
そのことを理解しているFRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長は、「テーパリングは時期尚早」という趣旨の発言を繰り返してきました。
しかし5月20日に、一部の担当者がテーパリングの議論を示唆したというニュースが流れました。これによって株価は急落するだろうと思ったのですが、ふたを開けてみるとあまり影響していないという状況でした。
このことから、テーパリングはもう織り込まれ始めたと判断し、ハイテク銘柄を買い始めるのによい時期に入ったと考えました。
最後に、三番目の理由は、「質への逃避」です。
上記の二つは、ハイテク銘柄を今、買うことの理由でしたが、なぜその中で半導体を選んだのかというと、目下の半導体不足というわかりやすい需要があるからです。
コロナの中で大きく成長した企業は、「はたしてコロナ禍以後もこのまま成長していくだろうか」という懸念があります。
そうした中で、より安全な投資対象に資金が流れる「質への逃避」の力学が働くと考え、ハイテク銘柄の中でもわかりやすい需要がある半導体関連がよいだろうと判断しました。
「極端紫外線リソグラフィ」検査装置で世界シェア独占!
数ある半導体関連銘柄の中でレーザーテックを選択したのは、半導体製造の最先端技術である「極端紫外線リソグラフィ」に対応した検査装置で世界シェアを独占しているからです。つまり、この分野への投資がすべてレーザーテックに流れてくることになります。そのため、世界的に製造設備への投資が活発化するこの時節に、まさしく合致した銘柄だと考えます。
リソグラフィとは、フィルム写真のように光に反応する(感光性)素材を用いることで、回路の型を転写する技術です。
上図の左側をご覧ください。
乾板(フォトマスク)に当たった光が、縮小レンズを通して感光性の素材が張られたシリコンに届くことで、回路の型が転写されています。
このように縮小レンズを通して小さく回路の型が転写されることで、あれほど小さい半導体チップでたくさんの情報を処理できるわけですね。
もしフォトマスクに傷などの欠陥があった場合、作られる回路には図の右下のように、異常が出てしまいます。傷と言っても、極端紫外線リソグラフィでは数ナノメートルといった非常に細かい回路を製造するため、ごくごく小さいものになります。菌やウイルスよりも小さいといえば想像がつくでしょうか。
この非常に小さな欠陥を検査する装置が、レーザーテックが世界シェアを独占している装置になります。
このように、(1)明確な需要がある(2)時節にあっている(3)参入障壁の高い独自の技術を持っている――という点から、5月24日の始値1万7540円で100株を購入しました。
レーザーテック(6920)
年初来高値(2021年6月2日) 2万1470円
年初来安値(2021年3月9日) 1万1270円
株式取得時の株価(2021年5月24日) 1万7540円
取得株数 100株