スタートした時は「推すな、押すな」の大盛況だった自衛隊による新型コロナウイルスワクチンの大規模接種センター。わずか2週間で、閑古鳥が鳴くありさまに......。
全国各地で自治体が始めた大規模接種会場も同様のガラガラ状態だ。
あわてた防衛省では2021年6月10日、対象地域を全国に広げた。「遠く北海道や沖縄からもどんどん来てほしい」というわけだが、ネット上では、
「GoToトラベルならぬGoToワクチンか? 都道府県をまたぐ移動を控えてほしいと政府が呼びかけているのに、感染拡大する行動を勧めてどうする!」
と、猛批判が上がっている。
4000人分の予約に47人だけの愛知県
北海道でも大規模接種会場は閑散としていた。北海道新聞(6月10日付)「高齢者接種の予約伸び悩み 札幌の大規模会場、加速の鍵は」によると、北海道と札幌市は65歳以上を対象にした大規模接種会場を市内に4か所開設した。全国の主要都市の中では高齢者の接種率が低く、政府が掲げる「7月末完了」の目標を達成するために、大規模会場でできるだけ多くの人を接種させるためだ。
しかし、「このやり方は住民目線に立っていない」と批判が多く、訪れる人はまばらだった。北海道新聞記者が取材した、札幌市内に住む97歳の女性はこう憤った。
「私は、家の中を歩くのもやっとですから、一人では(大規模接種会場に行くのは)無理です」
愛知県でもショックな状態があった。5月24日に愛知県が県営名古屋空港のターミナルビルに大規模接種会場を設置した。地元の小牧市を中心に4000人分の予約枠を用意したが、なんと、2日後の26日になっても申し込みはたった47人(1.7%)にとどまったのだ。
しかし、地元メディアの名古屋テレビ(6月7日付)は「大規模接種会場埋まらなくても『ネガティブなことじゃない』 愛知の接種率は大都市ではトップクラス」と、妙に明るく前向きにこう報道するのだった――。
《愛知県の大規模接種会場での予約にかなり空きがでています。なぜ空きが出ているか、その事情を取材しました。県営名古屋空港では7日から小牧市民への接種が始まりました。
接種した人「ちょっと安心しました」「早い時期に接種を受けたかった。かかる前に予防接種したいと思った」
進むワクチン接種。一方で予約の枠に空きも出ているといいます。
小牧市接種担当・永井政栄さん「市内でも予約が十分に取れる状況であったことから、空港までお越しいただいて接種することを希望される方が少なかったのかなと思っています」
小牧市は、接種券の発送日を1、2歳刻みで年齢ごとに細かく変えることで予約の受付が一度に集中しないようにしました。これにより、スムーズに予約がとれるため、大規模接種会場よりもかかりつけ医を選ぶ人が多いといいます。
小牧市民「すぐに予約ができました。かかりつけ医にやってもらったほうがいいと思った」
小牧市接種担当・永井政栄さん「予約の枠にキャンセルが出た場合、保育士など、順序を決めて受けていただく仕組みを作っていますので、そういった方々にも接種をしていただきながら進めていきたい」》
つまり、もともと大規模接種会場はかかりつけ医がとれない人のための「安全弁」であり、余った分は必要な人に回すシステムができているから、まったく気にしないというわけだった。
電話口で「俺が死んだらお前が責任を取るのか!」
大阪市が開いた大規模接種会場でもガラ空き状態が目立った。朝日新聞(6月5日付)「ワクチン大規模接種の予約に『空き』 やっぱり電話」がこう伝える。
「『やっぱり電話なのだなと改めて感じている。65歳以上の高齢者は、ITでの予約は不慣れな方が多い』。6月4日、大阪市の松井一郎市長は記者団にそう語った。大阪市は『インテックス大阪』(住之江区)で、65歳以上を対象に1万6200人分の枠を設け、1日にインターネットで受け付けを開始。しかし、1日は25%、翌2日も45%の予約にとどまった。3日から電話での受け付けも追加すると、すぐに枠が埋まった。『電話をスタートさせた瞬間に、一挙に予約数が増えた』(松井氏)という」
やっぱり予約には電話が必要だというわけだが、コールセンターの人々が、暴言を浴び続けて心が折れるケースが続出している。テレビ朝日(6月7日)「〈接種予約〉コールセンターで疲弊『人間扱いは...』」がこう伝える。
「ワクチン接種の予約を受け付けるコールセンターでは、理不尽な怒りをぶつけられ、対応するオペレーターの疲弊が深まっています。都内の予約担当オペレーターは『接種した後に気分が悪くなったらどうしてくれるんだ!もし死んだら、お前が責任取るのか!』と30分くらい言われて...。『それは分かりかねます』と答えたら、『馬鹿と話す気はないから、上の者と代われ!』って...」
1日何十人かは「悲鳴と怒号」だという。なかなか電話がつながらないことにイラ立ち、やっとつながった電話の相手に自治体の対応の不平不満をぶつけるのだ。一番つらかった訴えは、基礎疾患があるにもかかわらず、高齢者にしかまだ接種券が配られないことから、
「私が死んだらどうしてくれるのよ!」
と、不安でたまらない声を上げ続ける女性だった。
「GoToワクチンで全国に感染を拡大させる気か!」
こういう人々には対応せず、全国に対象地域を広げた自衛隊の大規模接種センターの対応に、ネット上で批判が高まっている。
「GoToトラベルをこんな形で復活させるとは。GoToワクチンで全国から人を移動させたら、県を跨いだ移動の自粛を求めている感染対策と矛盾する。本当にやる事がお粗末すぎて悲しくなってくる」
「たとえば長野県から高齢者が、はるばる大手町まで行くかね。しかもワクチン接種は2回打つわけだから、また東京に行かなくてはならない。わざわざコロナが少ない県に住んでいる人が、コロナにかかるリスクを冒して受けに行くと思う? ワシは東京までワクチン受けに行ったぞ! なんて田舎で言えない。逆に2週間家から出るな! と言われるのがオチだよ」
「うちの高齢の親は、地元の集団接種会場でさえ、交通が不便なうえに人流が怖いと行かなかった。予約電話がつながるのに1か月要したが、地元かかりつけ医での個別接種にした」
こういう時こそマイナンバーカードを使って現役世代を早く接種させるべきだという声が非常に多かった。
「一番よいのは、大手町近辺を歩いている働き手さんが保険証やマイナンバーカードを使って、サクッとできることだ。河野ワクチン担当大臣が総務省に号令し、自衛隊の大規模接種会場に限っては早急にマイナンバーカード提示でも受けられるようにしてほしい」
「若い世代はまだ接種券が配られていないが、こういう時こそマイナンバー(カードではなく、番号そのもの)の活用だろう。とりあえず専用のサーバーに何番の人がワクチンを打ったということを登録しておけばいい。住所や氏名の登録は不要。市町村やワクチン接種機関は、その人が接種済みかどうかは番号だけで照会すればいいのだから、個人情報の漏洩は起こらない」
最後にこんな声を紹介したい。
「接種券が、配られていない世代で自粛生活しています。接種券が来ないので、県外に住んでいる息子にも長らく会えない状態です。会場に余裕があるのなら高齢者以外の接種券を早く配るか、または接種券がなくても打てるシステムがあるとよいのですが...。早く打ちたい私としては、ガラガラとか廃棄とかのニュースを聞くと、とてももったいないと感じます」
(福田和郎)