スポンサー企業「9~10月に延期してほしい」
こうした事態に、経済界からも「何が何でも東京五輪を開くというなら無観客で!」という声が上がり始めた。6月3日、経済同友会の櫻田謙悟代表幹事が定例会見で、東京五輪に開催について聞かれ、こう答えた。
「世の中が新型コロナで疲弊する中で、オリンピックが日本で行われ、世界が団結することの価値は否定しないが、国民が大変不安に思っているのも事実だ。ワクチン接種の結果、感染状況に関する病床使用率などの5つの指標の改善が続いたとしても、無観客が限界だと思う」
そのうえで、こう提案したのだった。
「無観客ではあるが、たとえば VR(Virtual Reality)や、選手の一挙手一投足を感激するような形で映るデジタル技術を活用することも一案だと思う。初めてデジタルオリンピックを成功させた国として、世界に誇れるのではないでしょうか」
経済界といえば、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が、「日本の東京五輪スポンサー企業の一部が、水面下で大会を9~10月に延期することを提案している」と報じた。6月4日付「Olympics sponsors call for Tokyo Games delay to allow more spectators」(オリンピックのスポンサーが、より多くの観客を受け入れるために東京五輪の延期を要求している)という記事だ。
それによると、6月初め、スポンサー契約額で総額30億ドル(約3300億円)以上を投じた日本企業47社が不満を募らせ、一部企業が主催者側に延期の要望を出した。スポンサー企業はできるだけ多くの観客が入る形での開催を強く望んでいるのだった。
要望を提案した企業の幹部は、フィナンシャル・タイムズの記者にこう語った。
「組織委員会は7月23日の開会を固く決心しているようなので、この提案が大きく影響を与えるとは思えない。しかし、ワクチン接種が進み、気温も涼しくなり、世論の反発も少ない9月末または10月ごろに大会を開催するほうがはるかに理にかなっている」
別のスポンサー企業幹部は、
「このまま無観客や少人数での観客の開催では、チケットのプレゼントや会場での大々的なプロモーションが出来ない。我々が投資した資金の価値がなくなる。追加のスポンサー料を払ってもいいから、完全な形での秋の開催を望む。そうすれば、投資した資金もいくらか価値が出てくる」
とまで話した。
そして、フィナンシャル・タイムズは政府分科会の尾身茂会長の「オミの乱」にも触れて、スポンサー企業幹部のこんなコメントで結んでいる。
「尾身茂会長が、現在の状況で開催するのは『普通ではない』と述べたことの危険性について、私の会社でも議論があった。それだけに、政府はオリンピックを(多くの観客を入れて)予定通りに開催できるようにあらゆる努力をするべきだし、2~3か月遅延のプランBも準備する必要があると思う」
このフィナンシャル・タイムズの報道について、組織委員会は6月5日、「スポンサー企業から、そのような要求はない」と否定する見解を発表した。
(福田和郎)