新型コロナウイルスの感染症対策の影響で、大規模な金融緩和を余儀なくされた世界各国の中央銀行ですが、次々と正常化に向けて動いています。
正常化とは、極端な金融緩和政策を徐々にやめて、引き締め方向に動くことです。正常化に向かうスピードが速い国の通貨ほど、今後は買われることになりそうです。
加ドルが先陣 英ポンド、NZドルと立て続けに......
その象徴的な動きは、カナダドルでした。2021年4月21日の政策決定会合において、カナダ国債の買い入れ目標額を、週最低40億カナダドルから30億カナダドルへと減額しました。
事前に予想されておらず、驚きから米ドル・カナダドルは1.25前後から1.20手前へ下落。カナダ円は85円台半ばから90円台後半へと急騰しました。
次は英国。5月6日の英中銀理事会では、量的金融緩和の規模は総額8950億ポンドに維持されましたが、ホールデン理事は反対票を投じました。そして、国債買い入れペースを週44億ポンドから34億ポンドへと10億ポンド減額しました。
発表直後の変動は大きくありませんでしたが、結果的にその後、ポンド・米ドルは1.39前後から1.42前後へと上昇しています。
そして5月21日、ニュージーランド(NZ)中央銀行が動きました。政策変更はありませんでしたが、声明文から「必要とあれば利下げする」との文言が削除されました。そして、政策金利見通しでは2022年9月に利上げ予想を前倒ししました。声明文の全体的なトーンは慎重で、すごく強い内容とも言えませんでしたが、NZドルは対米ドルで0.7230米ドル前後から0.7315 米ドル前後へと、対円では78.65円前後から80円乗せへと上昇したのでした。
個人で取引することが難しいマイナー通貨ですが、アイスランドは5月19日、ついに0.25%の利上げに動きました。アイスランディック・クローナも上昇基調にあります。
次に正常化に向かう中央銀行はどこだ!?
このように、「正常化」に一歩踏み出した国の通貨から買われ始めています。マーケットでは次に「正常化」に向かう「中銀探し」が始まっているといえます。
今後気になるのは、欧州中央銀行(ECB)でしょうか。6月10日にECB理事会が開催されます。マーケットの一部にはECBも正常化方向にステップを踏むのではないかとの見方がありました。実際に独10年金利はこのところ急上昇、それに歩調を合わせてユーロドルも上昇してきました。
ところが、このところのラガルド総裁を始めECBの各理事達は、口を揃えて「正常化」はありえないと発言しています。私は6月10日にはECBも少し「正常化」方向にシフトするのではないかと思っていましたが、皆が皆、金融緩和を否定する以上、その可能性は低そうです。
英国は次の理事会(6月24日)では量的緩和の規模を縮小する可能性があるのではないかと思います。おそらく、ECBより正常化スピードは早いでしょう。そうなると、EUR・GBP(ユーロ/英ポンド)の方向性は下方向ということになると思います。
ニュージーランドが動いたので、次はオーストラリア(豪)? という連想は働くと思います。豪中銀は7月の会合で公債買い入れ延長を行うかどうか決めることになっています。
しかし、ニュージーランドよりも正常化スピードはゆっくりになりそうです。なぜならば、賃金の上昇スピードが遅く、国内のインフレ圧力が極めて弱いからです。中国との関係悪化も金融政策の「正常化」を妨げる要因の一つと言えるでしょう。
肝心の米国ですが、先日のFOMC(米連邦公開市場委員会)議事録で 「a number of」(何人かの)委員が「近い将来のいずれかの会合において、資産購入ペース調整のための計画(テーパリング)を話し合うことが適切ではないか」という言及がありました。
テーパリングに関して初めて具体的に言及があったので、マーケットは少し驚いたと思います。
なぜなら、その時のFOMCにおける会見で、パウエル議長は「テーパリングに関して話し合う時期にきているのではないか、あなたやあなたの同僚たちとその件に話し合わなかったのか?」と問われると、「いや、まだその時期ではない。そのような話をする時期になったら、実際にテーパリングをするかなり前に国民の皆様にお知らせすると言ってきましたし、そうするつもりです」と発言していたからです。議事録の内容と少し矛盾していると言えます。
ゼロ金利政策から20年超、日本円はどうなる?
それはともかく、今後の米金融政策ですが、夏頃(ジャクソンホール?)においてテーパリングに関する議論を開始し、2022年初めにテーパリングを開始し、FOMCごとに150億ドル相当の減額を進めると思われます。
そうすれば、現状1200億ドルの資産買い入れを行なっていますが、FOMCは年間8回あるので、1年でちょうど終わることになります。そして2023年後半に利上げということになりそうです。
そのペースは他の中銀に比べて少し遅く感じられます。そうなるとやはり「正常化」で先行する国の通貨が買われることになるのでしょう。
それでは日本はどうなるのか? 日本はゼロ金利政策を始めて20年以上経過していますが、今後も引き締め政策を実施できるだけ景気が回復することは難しいと思われます。各国が金融引き締め局面に入ると、円は弱くなりがちです。前回のアベノミクスも米金融政策が引き締まる局面と重なってはいました。
そうなると、米国以外の経済の強い国から引き締め局面に入り、遅れて米国も引き締めを開始しますが、日本が引き締め局面に入ることはないので、引き締めに先行する国の通貨を買い、円を売ることが良さそうに見えます。
2021年は、カナダ円やポンド円といったクロス円取引のロング(買い)ポジションが輝きそうな1年になるのではないかと考えています。(志摩力男)