日本は「環境後進国」
日本のチームも参加した国際共同プロジェクトの結果、成層圏エアロゾル注入は冷却効果があること、ただし、熱帯あたりは冷えすぎるむらがあること、また中止すると気温上昇することなどが検証されている。
成層圏エアロゾル注入は、コンピューターを用いたモデル研究から一歩進んだ屋外での小規模な実験が計画されているという。ハーバード大学の教授らが進めている「スコーペックス」プロジェクトを紹介している。日本語では、「成層圏制御下摂動実験」といい、ビル・ゲイツ氏からも研究資金を受けているそうだ。
約100グラムから2キログラムのエアロゾルを気球から投下する計画だ。仮に硫酸エアロゾルを使った場合、一般的な民間航空機が1分間に排出する硫黄の量より少ないので、その規模の小ささが分かる。今年6月、実験装置の動作試験のためスウェーデンの宇宙センターから打ち上げられる。
杉山さんは、現時点では存在しない技術であり、「使い方の未来シナリオ次第で、よい技術でも悪い技術にもなり得る」と評価している。こうした技術には適切な科学技術ガバナンスが必要であり、人々の意見を反映していくことが望ましい、としている。
本書では、最後に人が気候を操れるようになったらどうなるか、3つのシナリオを示している。
1 平和裏の気候工学実施に続くアフリカでの大干ばつ
2 気候危機に間に合わない気候工学
3 単独実施による地政学上の緊張
シナリオ3は、アメリカが単独で実施し、欧米や日本の研究機関が地球の冷却効果を確かめるが、中国とインドで大規模な風水害が発生し、アメリカを糾弾するというものだ。
どれもあまり望ましくないものだが、杉山さんは気候工学を望ましい形で選び取ることの難しさを指摘している。 2019年12月の国連気候変動会議で、日本は地球温暖化対策について後ろ向きな国に授与される「化石賞」を受賞した。省エネルギーや「もったいない」、ごみ分別の個人の努力と環境対策は別だ、と杉山さんは厳しく述べている。国全体で環境に貢献するには、法律などの政策的な対応か、技術的な対応が必須だというのだ。それでなければ、日本はずっと「環境後進国」であり続ける、と結んでいる。(渡辺淳悦)
「気候を操作する」
杉山昌広著
KADOKAWA
1870円(税込)