総務省幹部の「接待漬け」の実態が明らかになった。
総務省は2020年6月4日、通信分野の幹部職員ら約170人を対象に実施した外部事業者との会食調査の結果を発表。計32人、延べ78件の会食が利害関係者からの接待を禁じた国家公務員倫理規定違反に当たり、特に悪質な9人が減給・戒告の懲戒処分、23人が訓告や厳重注意となった。
総務省幹部、第三者委に「覚えていない」「聞いたことない」
接待問題の発端は、東北新社に勤める菅義偉首相の長男、正剛氏が総務省幹部に対する接待を繰り返していたとの週刊文春の報道だった。問題はその後、NTTなどにも広がり、総務省は省内調査と並行して第三者委員会(座長・吉野弦太弁護士)を立ち上げ、接待が総務行政に影響したかどうかを調べてきた。
第三者委は総務省の発表に合わせ、東北新社分に関する報告内容を明らかにしたが、その内容は辛辣を極めた。
東北新社の社内調査によると、同社は2017年1月にBS4K放送の事業者認定を受けたものの、同年8月、社内調査で外資の出資比率が2割を超える外資規制法違反状態にあることが判明。BS4K放送を所管する衛星・地域放送課の井幡晃三課長(当時)に報告して対処法を相談したとされる。
井幡課長はその前後に東北新社から規制違反の相談を受けたうえで、8月下旬には接待に応じ、後日、プロ野球チケットの提供も受けたとされるが、第三者委の調査に同社からの相談について「覚えていない」「違反については聞いたことがない」「部下に違反を伝えたことはない」などと全否定した。
こうした態度に第三者委は「あってしかるべき事実経過や理由について、合理的な説明もできず、裏付けとなる客観的資料の提出もなった」と、最大級の表現で不快感をあらわにし、東北新社の資料などから「総務省は違反の事実を知っていた可能性が高い」と認定。東北新社のBS4K放送の事業認定を取り消さず、子会社による事業承継で外資規制の違法状態を「解消」したとの対応について、「行政を歪めたとの指摘は免れない」と総務省の責任を糾弾した。
断罪されても処分は「形式」的
今回、処分を受けた幹部の多くは旧郵政省時代に採用されたキャリアだ。同省出身者が中心となっている総務省の所管事業は郵政、通信、放送など許認可事業が多いうえ、大半の分野で厳しい参入規制が設けられている。
これが総務官僚と参入業者の「なれ合い」を生む土壌となった。総務省が国家公務員倫理規定違反と認定した78件の会食のうち、53件はNTTグループの接待。総務省と参入業者のいびつな関係がわかる。
第三者委もこうした総務省の体質を、「会食の積み重ねや長い付き合いにより、職員と事業者との間でなれ合い意識やムラ社会が醸成されていく」「アポイントなしの面会、携帯電話といった簡便な手段で事業者と重要なやり取りをするような行為が当然のように行われてしまう」と、手厳しく批判している。
こうした第三者委の報告の文面を読むと、どれだけ厳しい処分が下されたのかと思うが、処分は「会食」という、ある意味「形式犯」ともいえる部分に限定してのもの。東北新社のBS4K放送をめぐり「行政を歪めたとの指摘は免れない」と「断罪」された井幡課長らについても、本人が否定していることを理由に、この点についての処分は見送られた。
武田良太総務相は再発防止の徹底を口では強調しているが、井幡課長をはじめとして、組織と個人の保身のため真相究明に協力しない職員が多かったことには、お咎(とが)めなし。これでは「信頼回復」のかけ声もむなしく響くばかりだ。
「接待漬け」で麻痺した総務省職員の意識改革の道は遠そうだ。(ジャーナリスト 白井俊郎)