数百万円のホテル代を組織委に払わせる五輪貴族
尾身氏は東京五輪では、特に世界中から来日する報道陣やIOC関係者の行動をコントロールできるかどうかが、非常に難しいと指摘していた。その中でも一番制御が難しいのが「特権貴族」と化した「IOCファミリー」だ。
毎日新聞(6月7日付)のコラム「風知草:開催へ、もう一つの条件」で、山田孝男・特別編集委員が「ファミリー」の実態をこう明かしている。
「東京オリ・パラは時間切れ突入の流れで、『感染症対策をもっと厳格に』の声しきりだ。だが開催なら、クリアすべき条件がもう一つある。オリンピック・ファミリーと呼ばれる特権階級の入国制限だ。国民がガマンし、選手も不自由だというのに、ファミリーは五つ星ホテルでVIP待遇という大会契約が放置されている。いびつな契約をきっぱり正し、国民を納得させてもらいたい」
「オリ・パラで計5000人というファミリーの削減はあいまいなままだ。ファミリーの中核はIOC委員115人と通訳など随員、元委員、コンサルタント、国際競技団体と各国五輪委の幹部など、『運営に不可欠な人材』というタテマエだが、IOCが『ゲスト』と認定する知名士も含まれる」
そのファミリーが信じられないほど傲慢極まりない人々なのだ。
「IOCの面々を『五輪貴族』と名付け、1980年代から追ってきた英国のジャーナリスト、アンドリュー・ジェニングスによれば、ファミリーは五倫貴族とその遊び仲間である国家元首、ヨーロッパの王族、各国の外交官、政府高官、スポンサー企業の重役...などである」
「開催都市契約の大会運営要件によれば、大会組織員会は、ファミリーに五つ星または四つ星ホテルのスイートルーム(1泊数十万円か数百万円)を含む1400室を提供しなくてならない。IOCの予算上限は1泊400ドル(現在のレートで4・4万円)。差額は組織委が支払う。あらゆる差別を認めないはずの、オリンピック憲章と相いれない異様な不平等として注目を集めている」
なんと、数十、数百万円もする豪華ホテルの宿泊費のほとんどを東京五輪組織委が支払う契約だというのだ。こういう人たちが厳格な感染防止ルールを守ることなどあり得ないだろう。
山田孝男記者は尾身氏への共感と、政府への怒りを込めて、こう結んでいる。
「尾身茂会長は強行するなら『何のためにやるのか』と根源的な問いを投げかけた。尾身氏の問いにどう考えるのか。丸川珠代五輪担当相は『我々はスポーツの持つ力を信じてやってきた』と応じ、つまり返答に窮した。丸川氏はこう答えるべきでなかったか。『感染症流行でも開く意義は、行き過ぎた商業化を改め、オリンピックの原点に立ち返るところにある。この決意を内外に示すため、オリンピック・ファミリーの特権を大胆に見直す。放置すれば、国と国、人と人の間の格差、不平等が広がる』」
(福田和郎)