「尾身の乱」に菅政権が大バッシング 「良心の叫び」のはずが「ご乱心」で鎮圧される!(1)

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「尾身の乱!」

   そんな言葉も飛んだ。

   政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長の爆弾発言が波紋を広げている。

「なぜ今、東京五輪を開かなければいけないのか。菅義偉首相は国民が納得できるように説明すべきだ」

と、国会で訴えたことが、政府や大会組織委員会の怒りと反発を招いた。尾身氏の反乱は鎮圧されるのか――。

  • 尾身茂会長は反乱を最後までまっとうできるか
    尾身茂会長は反乱を最後までまっとうできるか
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「政府では話にならない。IOCに直訴する」

   政府分科会の尾身茂会長が、2021年6月3日から4日にかけて衆議院厚生労働委員会などでどんな発言をしたのか、ここでざっとおさらいをしておこう。

   主要メディアの報道をまとめると、主に次の4点が、東京五輪・パラリンピック開催を強行しようとしている政府や大会組織員会に衝撃を与えたのだった。

「パンデミック(世界的な大流行)の中での開催は、普通はない」
「それでも開催するのなら、なんのために開催するのか、その意義を国民が納得できるように丁寧に説明しないと、協力しようという気が起こらない」
「政府もIOCも強い覚悟を持って臨むべきだ。感染防止にかなり厳しい責任を果たさないと、一般の市民はついてこない」

   そして、政府と大会組織委にとくにショックだったのは、次の言葉だった。

「政府に言っても国際オリンピック委員会(IOC)に届かなければ意味がない。どこに我々(分科会)の考えを述べたらいいのか検討している」

   まるで、政府では話にならないので、IOCに直訴すると訴えているに等しい。

尾身茂会長の提言を「自主研究」にした田村憲久厚労相

尾身茂会長の提言を「自主研究」にした田村憲久厚労相

   さっそく、政府内では「尾身会長、ご乱心!」とばかりに、尾身会長の諫言をないがしろにする動きが広がった。

   6月4日、田村憲久厚生労働相は記者団から尾身会長の発言に対する対応を聞かれ、こう答えた。

「いちおう専門的なご意見という形の中で反映をしているのだと思いますが、専門家はいろいろな方々がいろいろな分野でおられるわけで、自主的にいろいろなことをおっしゃられることはあると思います。政府で参考にさせていただくものがあれば、政府の中でも取り入れさせていただくことは当然あると思います。いずれにしても、自主的なご研究の成果の発表ということだと思いますので、そのような形で受け止めさせていただきます」

   つまり、尾身氏個人の「自主的な研究発表」というわけだ。政府から頼んだ課題ではないので、小中学生の夏休みの宿題発表以下の扱いになりそうだ。

「まったく別の地平から見た言葉、通じません」

尾身茂会長の提言を「全く別の地平」と表現した丸川珠代五輪相
尾身茂会長の提言を「全く別の地平」と表現した丸川珠代五輪相

   丸川珠代五輪担当相も6月4日の記者会見で、こう述べた。

「我々はスポーツの持つ力を信じて今までやってきました。まったく別の地平から見てきた言葉を、そのまま言ってもなかなか通じづらいというのは私の実感です。(感染防止に)できる対策は何かということに懸命に取り組んでいます。一つひとつの積み重ねが、本格的に社会を動かしていく時の知見になると思います」

   「まったく別の地平から見てきた言葉」という、わかったようでよくわからない言葉で報道陣を煙に巻いた。「別の地平」はすぐにトレンドワードに入った。

   尾身会長と「二人三脚」でコロナ対策にあたってきたと自認する、盟友の西村康稔経済再生担当相は、6月3日放送のTBS系情報番組「ひるおび!」に出演、こう語った。

「尾身先生とは毎日話しているが、尾身先生がおっしゃっているのは医療の問題だと思います。コロナ対応や、一般治療に加え、五輪を開催すると熱中症やケガの治療など二重、三重の負荷がかかることを言っているのでしょう。(その対策としては)医療に負荷をかけないためには重症者を出さないこと。ワクチン接種を進めればこれを大幅に減らすことができます」

と、東京五輪の医療問題を熱中症とケガに矮小化。尾身氏が指摘していた五輪開催によって世界中から変異ウイルスが流入する危険性をスルーした。

   こうした政府幹部たちの姿勢の背景には、専門家を「ご都合」主義で利用するだけ利用して、批判を一切許さない菅義偉政権の体質がある。

「国会に出過ぎて、お疲れなのでは」

   朝日新聞(6月5日付)「専門家の意見、政権『ご都合』利用 厚労相『尾身氏の自主研究』」が、尾身氏に対する菅政権の冷ややかな対応を、こう伝える。

「政権与党は、コロナ禍のもとでの五輪に対し万全なリスク管理を求める(尾身氏ら)専門家に、神経をとがらせる。官邸幹部は『尾身さんは野党から聞かれたからリスクをしゃべっているだけ』と、尾身氏が受け身で発言していると主張。自民幹部は『ちょっと言葉が過ぎる。尾身氏は開催を決める立場にない。首相は五輪をやると言っている。それ以上でも以下でもない』と不快感をにじませた。『国会に出過ぎて、お疲れなのでは』という見方を示す」

   ちょっと、おかしくなっているのでは、とまで皮肉るのだ。しかし、政権内部にも尾身氏に同情する声もある。朝日新聞はこう続ける。

「首相自身も緊急事態宣言のあり方をめぐり、節目の記者会見では尾身氏を同席させ、質問をゆだねている。状況に応じて、専門家を尊重したり突き放したり――。政府のご都合主義の対応には、身内からも批判が出ている。閣僚の1人は『ダブルスタンダードが過ぎる。意見ははねつけられ責任だけ押しつけられても、専門家も困る』。若手参議院議員は『専門家には影響力がある。国民は同調するだろう』と専門家軽視の姿勢を危ぶむ」
(福田和郎)
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