新型コロナウイルスの感染拡大で、一番被害にあって苦しんでいる飲食店。そんな飲食店の売り上げに何とか貢献したいと、小規模事業者などの事業資金や教育資金などの生活資金を支援する、政府系金融機関の日本政策金融公庫が、「売上アップにつながる写真の撮り方ガイド:飲食店編」という冊子を、2021年5月末にインターネットで公開した。
「とことん飲食店のお役に立ちたい」という制作陣のこだわりと熱意にあふれる優れものの企画だ。
料理はキレイに撮ればいいわけではない
冊子は、冒頭でこう記している。
《本冊子でお伝えするのは「キレイな写真の撮り方」ではなく、「売上アップにつながる写真の撮り方」です。そのため、この冊子では写真の知識を大きく「売上の構造に関する知識」と「撮影技術に関する知識」の二部構成に分けてお伝えしていきます》
そして、「写真は上手に撮れている気がするが、売り上げにはつながらない」という人は「売上知識編」を重点的に、「どうしても写真が上手に撮れない」という人は「撮影技術編」を重点的に読んでほしい、とある。
難しいことはないのだ。すぐに実践できる、ちょっとした工夫ばかり。何しろ、「一眼レフは必要ない、スマホで撮れる」のだから、というのがコンセプトだ。
ただ、料理はキレイに撮ればいいというものではない。「売り上げ知識編」では、これだけは意識しようとある。
あなたは、入店する前のお客様と入店した後のお客様の、どちらに向けて写真を撮っているのか? 狙うターゲットに応じて撮り方を変えなければいけない。
「写真技術編」で大事なことは、「美味しそう!」と感じさせるための「光の方向」と「光の質」だ。この2つの技術を押さえればもう大丈夫だ。写真の構図はまず『基本ルール』に従って決めよう......。
初めてのお客は店に来させ、常連は注文を増やす撮り方
J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部では、日本政策金融公庫生活衛生融資部の担当者に取材した。
「公庫の生活衛生融資部では、飲食店や理容、ホテルなど16の業種に融資していますが、新型コロナウイルスの感染拡大で飲食店が一番苦しんでいます。飲食店を支援する立場として、なんとか助けてあげたいと、昨年から企画を詰めてきました。いま、SNSでお店の料理の写真を公開して、売上につなげたいという店が多いですが、キレイな料理の写真を撮ったからといって、必ずしも売り上げ向上とはいきません」
そこで考えたコンセプトが、内容が読み物としておもしろい、写真がキレイというものではなく、徹底的にお店の商売に役に立つ、具体的なアドバイスを盛り込むこと。つまり、人生がかかっている飲食店の人々の助けになる実践本だった。
「たとえば、初めてのお客さん向けには、お店に来たくなるような美味しく見える料理の撮り方を。つまり新規客数のアップを目指す撮り方ですね。2度目以降のお客さんには、注文単価のアップと注文数のアップを目指します。
そのためには、料理の高級感を出したうえで、小鉢類をつけて、『ついで注文』をしたくなる撮り方が必要です。お客さんに応じて攻め方を変えていくのです。また、写真を撮る際の立ち位置も載せてわかりやすく紹介しました」
と、非常に芸が細かいのだ。
実際に写真撮影を指導したり、売上アップのアドバイスに当たったりしたのは、映像を活用したプロモーション改善を手掛ける「フォト・パートナーズ」の社長で、中小企業診断士でもある石田紀彦さん。日本大学芸術学部写真学科で腕を磨いたプロカメラマンでもある。石田さんのお弟子も撮影に協力した。
石田紀彦さんは、冊子の中でこう語っている。
「写真はあなたの想いを伝えるための手段に過ぎません。あなたが写真を通じて伝えたいことは何なのか、撮影を始める前に『想い』を決めましょう。その考えることはたった1つです。写真を通して『誰に』『何を』伝えたいのか。その『想い』があって、初めて『思ったように写真が撮れる』のですす」
(福田和郎)