菅首相は「安全安心の大会」のオウム返し
この尾身茂会長の諫言も菅義偉首相にとって、「馬の耳に念仏」だったようだ。菅義偉首相は6月2日夜、「尾身会長の発言をどう思うか」と記者団に問われて、こう答えた。
「感染対策をしっかりと講じて、安全安心の大会にしたい。専門家の方々も感染対策をしっかりやるべきというご意見でしょうから、しっかりと対応していきたい」
と、門徒物知らずのように「安全安心の大会」を繰り返した。
「尾身会長は、大会を開く意義についても国民に納得できるよう説明を求めているが」と聞かれると、こう答えた。
「まさに平和の祭典。一流のアスリートが東京に集まって、スポーツの力で世界に発信していく。そのための安心安全の対策をしっかり講じたうえでやっていきたい」
と、また「安全安心」を繰り返したのだった。
そもそも、分科会と「アドバイザリーボード」の反乱は、どうして起こったのか。「このままでは政府に東京五輪開催を強行されてしまう。我々は医療の専門家として、それを許していいのか」という焦りにかられる人が多かったようだ。両組織のメンバーにはダブって入っている人がいる。その人たちを中心に非公式の会議が重ねられてきた。
朝日新聞(6月1日付)「感染爆発相当『五輪は困難』 分科会有志、慎重に議論」が、その動きをこう伝える。
「分科会の専門家の間で東京五輪について、東京都内の感染状況が『ステージ4』相当の状態が続けば、開催は困難との意見が相次いでいる。意見は、五輪開催のリスク評価をまとめたうえで、分科会有志による見解として公表することも検討している。分科会の複数のメンバーによると、17人いる正規メンバーのうち、感染症や経済の専門家の多くはステージ4で開催が困難との意見で一致している」
ただ、組織委員会にも別に専門家がおり、社会的影響も大きいため、打ち出し方を慎重に検討しているというのだ。表明時期は組織委が6月中に観客の有無を決める前が望ましいという。メンバーの一人は朝日新聞の取材に、
「政府に、(東京五輪に関して)ステージごとの精緻(せいち)なリスク評価をしてもらいたい」
と語り、ただただ「安全安心な大会を目指す」としか言わない、政府と組織委に怒りをぶつけるのだった。
(福田和郎)