「エコノミスト」は半導体の成長を特集
「週刊エコノミスト」(2021年6月8日号)の特集1は、「半導体 異次元の成長」。冒頭で津村明宏氏(電子デバイス産業新聞編集長)の「半導体は年率6%成長に 巨大投資計画が目白押し」という論考を載せている。
コロナ禍に伴う社会の変化でデジタルトランスフォーメーション(DX)が本格的に進展し始めたのに加え、米中の覇権争いによって、半導体が「戦略物資」となったからだ。
現在約4700億ドルである世界の半導体市場は2025年に6000億ドルを超えるという英調査会社の予測を紹介している。
コロナ禍で半導体の需要が急増したため、自動車向けなど一部の用途で半導体が供給不足になっている。それを解消するため、主要半導体メーカーによる巨額の増産計画が進む。海外メーカーに加え、日本メーカーも動きを活発化させている。
ソニーグループは一時凍結していたCMOSイメージセンサーの増強投資を復活。21年度から約7000億円を半導体への設備投資に充てる。4月に稼働させた長崎テクノロジーセンターを増強、CMOSイメージセンサーの収益を向上させる。
日本が世界的に高いシェアを持つ電力制御用のパワー半導体でも増産が進みそうだ。富士電機、三菱電機、東芝、ロームなどの動きを紹介している。
また、豊崎禎久氏(アーキテクトグランドデザイン・チーフアーキテクト)の「産業の主役は自動車から半導体へ スマートシティで力を結集せよ」という論考も刺激的だ。日本の生きる道はそこだというのだ。年初から続く自動車向けの半導体不足は、自動車産業と半導体産業の「主客逆転」を示唆した象徴的な現象だ、とも。
自動車メーカーの無理難題の押し付けが、日本の半導体メーカーを疲弊させた、とまで書いている。日本の半導体産業の再興は手遅れだが、TDKや村田製作所、日本電産、オムロン、ロームなどのセンサーメーカーはスマートシティで必要となるセンサーにおいて、世界的な強みがあるという。その特定分野では中国より強いというのだ。
第2部「半導体と国家」では米国、台湾、中国、韓国の半導体産業の最前線を紹介している。「台湾は半導体に守られている」というジャーナリスト、野嶋剛氏の指摘が興味深い。台湾の半導体受託製造企業、TSMCは、台湾の安全保障に直結する盾だという。「半導体が強くなければ、米国も台湾を大切にせず、中国は台湾にもっと圧力をかけるだろう」と指摘。
先の豊崎氏もTSMCの工場を日本に誘致するのが、日本の半導体産業を再興する有効な手段、と書いている。今年2月、同社は茨城県つくば市に研究所を作ることを決めたというから、まんざらの夢物語でもないだろう。
世界の先端を走っていた日本の半導体産業は、すっかり没落してしまった。その再興は容易ではないが、道筋があることを示した貴重な特集だと言えよう。(渡辺淳悦)