住宅地価の下落は東京圏だけ? コロナ禍で大きく変化した住宅地の現状と今後の見通し(中山登志朗)

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実際に転居した人は少ない

   もう一つは都心と郊外の物件価格や賃料水準の違いです。東京圏では都心部と郊外では居住コストに2~3倍の格差があることも珍しくなく、郊外方面に転居すること=生活コストを大きく軽減することに繋がりますが、大阪圏・名古屋圏ではエリア平均で比較すると、最大で1.5倍程度の差にとどまるため、生活コストという点での移転インセンティブがやや低いと見ることができます。

   さらに、東京圏での地価動向や住宅市場動向が東京以外の圏域に波及するまでのタイムラグが若干ながら(半年~1年程度)あることも加味する必要があります。大阪圏では、2020年を通じて毎月転入超過だった大阪府の移動人口が、2021年2月にわずかながら転出超過になったという点も見逃せません。

   この間、東京都および東京23区では2020年7月以降、21年2月まで8か月連続して移動人口が転出超過となっており、今後の住宅地価の動向を見据えるうえでは、重視すべき指標と言えます。毎年3月は新入学や新入社員の流入で、三大都市圏とも例年どおり大きな転入超過を記録していますが、4月以降もこの動向が維持されるのか、今後の地価動向を占う上で注目しておく必要があります。

   一方で、国交省が行ったアンケート調査では、コロナ禍で転居を検討したり実際に転居したりした人は約13%にとどまり、残りの86%強は転居を考えていないとの結果となりました。

   コロナ禍で大きく変化する、そして流動化すると考えられてきた住宅地価は、実際に公示地価ベースでは反転下落という結果になっていますが、依然として各都市圏の市街地中心部とその周辺で極めて高い水準を維持しており、中古住宅市場が活性化していることから住宅取得意欲も衰えているようには見えません。

   ポイントは、コロナ禍でも比較的安定した収入を得ている層と非正規雇用などで収入が激減している層の格差の拡大です。「K字経済」とも言われはじめている状況をこのままにしておくことは、今後の日本経済の安定的な成長にとって大きな阻害要因となることは明らかです。

   コロナ禍でも安定した生活を送れるように最大限財政出動をすること、それ以上にコロナ後の市場回復のために雇用と生活を安定させるための政策を次々実施し、誰も見捨てず安心して暮らせる社会にすることが求められています。

(中山登志朗)

中山 登志朗(なかやま・としあき)
中山 登志朗(なかやま・としあき)
LIFULL HOME’S総研 副所長・チーフアナリスト
出版社を経て、不動産調査会社で不動産マーケットの調査・分析を担当。不動産市況分析の専門家として、テレビや新聞・雑誌、ウェブサイトなどで、コメントの提供や出演、寄稿するほか、不動産市況セミナーなどで数多く講演している。
2014年9月から現職。国土交通省、経済産業省、東京都ほかの審議会委員などを歴任する。
主な著書に「住宅購入のための資産価値ハンドブック」(ダイヤモンド社)、「沿線格差~首都圏鉄道路線の知られざる通信簿」(SB新書)などがある。
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