怪物のような新型コロナウイルスがベトナムで誕生した。インド型の変異ウイルスと、英国型の変異ウイルスが合わさって生まれたハイブリッド型だという。
両方の悪いところをかけあわせたようなタイプで、従来型より感染力がはるかに強く、ベトナムでは2、3か月前の数十倍のペースで感染が猛拡大している。
こんなモンスターが東京五輪を契機に日本に入ってきたらどうなるのか。いや、もう入ってきているかもしれない。
ちょっと水際対策を怠ると手が付けられなくなる
コロナ対策の「優等生」だったベトナムだが、さすがに今回のハイブリッド変異株には手を焼きそうだ。
日本の専門家たちはどう見ているのか。2021年5月31日放送のテレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」の取材に応じた北村義浩・日本医科大学特任教授は、こう語った。
「しっかり感染対策を行い、ずっと抑え込んできたベトナムのような国でも、ちょっと緩んで水際対策を怠ると、こうなってしまうという例です。ベトナム型変異株は、非常に感染力が強く、しかも広がるスピードが速いので、ひとたび発生すると、手が付けられなくなります。まだまだ世界全体には色々な変異ウイルスが広がっていることを意識すべきです。ワクチン接種をしたからと言っても100%有効なわけではありません」
番組で、「ワクチンは効くのでしょうか」と聞くと、北村教授は、
「わかりません。でもワクチン接種は進めるべきです」
と答えた。
同日放送のTBS系「あさチャン!」の取材を受けた東京歯科大学市川総合病院の寺嶋毅教授は、
「感染急増には、新たに登場した変異株が関与していると考えても不思議ではない」
と話した。
しかし、「空気中での感染力が強い」という見方については、
「『空気感染』という新しい能力を獲得したというよりは、英国型株に見られるように、我々の細胞によりくっつきやすいウイルスなのではないか。密な環境では1度に多くの人に感染が広がりやすいタイプではないかと思われます」
と述べた。
さらに、同日のテレビ朝日系「大下容子ワイド!スクランブル」では、取材に応じた東邦大学の小林寅喆(いんてつ)教授は、すぐさまベトナム周辺からの入国者の水際対策を急ぐべきだと危機感をあらわにした。
「(インド型変異株の流入を防ぐために現在措置をとっているように)インドからの入国者と同じように、待機期間14日間のうち最初の10日間を国が指定する宿泊施設で待機するようすべきです。空港での検査も、抗原検査よりも精度の高いPCR検査にするべきです」
基本的に日本は現在、世界中のどの国からも新規外国人の入国を禁じている。しかし、インド型変異株が心配される国々に対する厳しさに比べ、ベトナムから入国者への検疫体制は比較的緩やかだ。
ベトナムから日本に入国できる人は、
(1)日本国籍を持つ人。
(2)日本での在留資格を持つ外国人。
に限られるが、日本へ入国した際の対策として、
(1)出国前の72時間内に受けた検査証明書の提出。
(2)空港内で抗原検査。陽性が出たら入院。陰性が出た人でも自宅やホテルなどで14日間待機。
となっている。
しかし、自宅やホテルなどで14日間待機と言っても、自己申告だから勝手にあちこち移動する人が後を絶たないのが実情だ。
小林寅喆教授は、少なくてもインド型変異株並みの厳しい隔離措置を講じるべきだというわけだ。
変異株は流行国以外からやってくる
そんななか、朝日新聞(5月31日付)「変異株、複数ルートで流入か 水際対策強化の隙を突き」が、予想もしない国からさまざまな変異株が検疫をすり抜けて入ってきている恐ろしい実態を、こう伝える。
「国内で感染が広がる新型コロナの変異株は、国が変異株の流行地として警戒している以外の地域を経由して流入したケースが複数あるとみられることが、ウイルスの遺伝情報などを分析した慶応大チームの調査でわかった。人の往来にのって変異株が第三国を介して間接的に入り込んだとみられ、現在の水際対策の課題が浮かぶ」
新型コロナウイルスの遺伝情報は、4種類の文字からなる「塩基」という物質が約3万つらなってできており、15日に1文字ほどのペースで塩基が入れ替わる。これを「変異」というわけだが、慶応大チームは国際的なデータベースに登録、公開されている新型コロナの遺伝情報を分析。すると、同じ英国型変異株でも、塩基の違いによって大きく5タイプに分かれ、うち4つは今年1月、変異株の流行国・地域に指定されていなかった東南アジアや中東などを経由して日本に流入したと推定されるという。
ブラジル型や南アフリカ型にも同じことがわかり、指定の対象外だった欧州経由で今年2月に流入したと推定された。政府は昨年12月以降、変異株が流行していた国・地域からの入国者に対する水際対策を順次強化しているが、これでは水際対策の意味がないことになる。
朝日新聞はこう結んでいる。
「変異株は流行国から直接、日本に入るとは限らない。流行国・地域に指定していない別の国からの入国者に関して、政府は現在、宿泊施設での待機は求めず、14日間の自宅待機を求めている。現在、英国株より感染力が高いインド型が流入している。感染症に詳しい群星沖縄臨床研修センターの徳田安春センター長(臨床疫学)は『ウイルスの遺伝情報の解析が十分にできていない国もあることを踏まえると、どんな変異株がどこで生まれていてもおかしくない。特定の国や地域に限定せず、水際の備えをもっと強化していくべきだ』と指摘する」
通常の水際対策でさえ、これほどの「ザル」なのだ。東京五輪では、五輪組織員会は人数を絞ったとはいうものの、世界中から約9万人の選手、関係者が東京周辺に集まる。どんな変異株を持ち込んでくるか見当もつかない。
ネット上では、
「世界中の変異株の見本市になるのは確実だ」
「インド型、ベトナム型を上回る最悪の〈ラスボス〉日本型が生まれて、世界に迷惑をかけなればよいが」
という意見があふれている。
(福田和郎)