日本が中国の属国にならない唯一の方法とは?

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   いち早くコロナ危機を収束させ、他国を尻目にプラス成長に転じた中国。日本では米国と並ぶ経済大国となった中国の現状から目をそむけようという人たちも少なくない。

   本書「中国経済の属国ニッポン」は、中国の経済、技術、軍事力などを冷静に分析し、中国の台頭をリポートした「警世の書」である。

「中国経済の属国ニッポン」(加谷珪一著)幻冬舎
  • 中国は内需主導経済にシフトする(写真は、中国・万里の長城)
    中国は内需主導経済にシフトする(写真は、中国・万里の長城)
  • 中国は内需主導経済にシフトする(写真は、中国・万里の長城)

内需主導経済へシフトし始めた中国

   著者の加谷珪一さんは、経済評論家。日経BP社を経て、野村證券グループの投資ファンド運用会社で企業評価や投資業務を担当。独立後は中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。著書に「貧乏国ニッポン」(幻冬舎)、「日本はもはや『後進国』」(秀和システム)などがある。

   第1章で、米国、中国、欧州、日本のGDP(国内総生産)の長期予測をしている。生産関数を使ったマクロ経済モデルによる加谷さん独自の推計で、2030年頃に中国のGDPは米国を追い抜くと予想している。英国のシンクタンク、経済ビジネスリサーチセンターは2028年に、日本経済研究センターも2030年前後の米中逆転を予想しており、確度は高いと書いている。

   その後、中国の成長率は鈍化するが、それは消費大国化することを意味しており、「日本は、今の輸出モデルを続けていく限り、中国を最大顧客としてビジネスをしていかなければなりません。これは日本にとって極めて大きな試練ということになるでしょう」としている。

   こうした状況に拍車をかけたのが、米国のトランプ政権による米中貿易戦争だという。中国は一時的に大きな打撃を受けたが、逆に米国への輸出が激減したことから、米国に対して遠慮することなく、アジア政策を進めるようになった。

   一部の論者は中国のGDP統計は信用できないと主張しているが、「輸出入というのは相手国が存在しますから、中国が虚偽の数字を発表することはできません」として、精度は低いものの、ある程度までは信用しても大丈夫だという。むしろ、事実から目を背けることが問題だ、と指摘する。

中国の技術力はもはやトップレベル

   中国共産党は2020年10月、新5か年計画で「双循環を通じて経済の拡大を図る」との方針を決定した。これは輸出を中心とした外需(外循環)と国内消費を中心とした内需(内循環)の両方を組み合わせるという意味だ。だが事実上、内需主導経済へのシフトと考えて間違いないという。

   中国政府は1980年代の日本が取った内需拡大策とその失敗をつぶさに検証しており、加谷さんは「中国は比較的容易に消費社会にシフトできるのではないか」と見ている。

   第3章では、トランプ政権は「関税」という「伝家の宝刀」を抜いたが、結果的に中国の台頭を加速させるという皮肉な結果を招いた、と批判している。関税というカードにはもはや大きな効果がないことがわかってしまったのだ。

   このところ中国は香港弾圧を強化したり、デジタル人民元の配布をしたりするなど。米国への配慮をまったく見せていないが、それも関税という最大の弱点が消滅した影響だと見ている。

   本書を読んで、最も衝撃を受けたのは、「第4章 中国の技術力はもはやトップレベル」のくだりである。日本政府が保有する1000機以上のドローンのほとんどは中国製であることや国際特許の出願数で中国が米国を抜いたことを紹介している。

   また、2020年における世界のユニコーン企業513社のうち、約半数が米国企業で、約25%にあたる120社が中国企業。日本企業は4社のみだ。

   航空機産業でも自国製の開発を進め、形式証明を武器に世界の航空機市場をコントロールしてきた米国の覇権が崩れる可能性も否定できないという。

   中国は国策として電気自動車(EV)へのシフトを進めている。中国は世界最大の二酸化炭素排出国なので、環境問題への対応でもあるが、それだけではないと指摘する。後発である中国メーカーが日米欧を追い越すチャンスでもあり、自動運転、ITサービスとリンクさせることで、想像を超える巨大なビジネスが生まれる可能性があるというのだ。

「脱炭素」で中国をけん制せよ

   今後、日本は人口減少、低成長と明るい未来を展望できそうにない。巨大な存在となった中国に対して、どうしたらいいのか――。加谷さんは「脱炭素」という動きが中国をけん制する強力な武器になる、と指摘している。

   脱炭素シフトは国家間の覇権争いになっているのに、日本はそれを十分に理解できず、そのカードを十分に使えない可能性も高いと危惧する。

   最終章で、加谷さんは、ここ10年の「嫌中論」の台頭を批判。「幼稚な嫌中論は、中国の台頭がまだ先のことであるという願望を前提にした、ある種の『ままごと』であったと考えてよいでしょう」と斬っている。

   それでは、どう中国と対峙すればいいのか?

   短期的に有効なのは米国との協調だとする。脱炭素とリンクした国際金融システムを米国と協調して創出できれば、中国に対して大きなけん制球になるとみている。

   中国の経済圏に入り込んでしまうという戦略もあるが、「日本は経済活動の多くを中国にコントロールされてしまいますから、場合によっては中国の属国のような地位に転落してしまう可能性も否定できないのです」と書いている。本書のタイトルはここに由縁する。

   では、中国との距離を保つ方法はないのか?

   輸出によって経済を成り立たせる産業構造から脱却し、完全に消費主導経済にシフトすることだ。基本的な経済活動は自国内で完結するから、中国との利害関係を最小限に食い止めることができる。

   その際、ネックになるのが「モノづくり大国」という日本国民のマインドだという。そして、貧困をできるだけ減らし、国民が高いITスキルを身につけ、積極的にお金を使う消費主導型経済にすることだ。

   「高度で豊かな消費社会を作るという目の前の努力をしっかりと積み重ねれば、それこそが、もっとも効果的な対中戦略となるはずです」と結んでいる。

「中国経済の属国ニッポン」
加谷珪一著
幻冬舎
926円(税込)

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