「自分が望む未来を実現させたい...」
「あの人のようになりたい...」
きっとあなたも何か「願望」をお持ちでしょう。願望の実現は「感情」と大きく関係しています。「願望と感情」の関係性について具体的に解説していきます。
「100%仕事で折れない 感情マネジメント」(神谷海帆著)clover出版
感情にフォーカスしない会話
みなさんは、ふだんにどの程度、感情に注意を払っていますか。ここで、よくありがちな会話を例にとってみましょう。
次の文章を読んでください。
Aさん「電車で座ろうと思って並んでたら、横入りしてくるヤツがいて......」
Bさん「何それ?」
Aさん「横入りされてちゃっかり座ってんの。おかげで並んでたのに座れなかったよ!」
Bさん「マジ?」
本書の著者、神谷海帆さんは次のように言います。
「短い会話ですが、この会話の中に感情を表す言葉はどのくらい入っているでしょうか?答えはゼロです。Aさんには、横入りされた『怒り』、自分が座りたかったのに座れなかった『悔しさ』、常識がない人に対する『呆れ』など、複数の感情があります。Bさんは『何それ?』と『マジ?』しか発していませんが、会話が十分成り立っています」
「実際にはAさんは複数の感情があるにもかかわらず、感情を表す言葉は一切使っていません。話しているのは感情ではなく『事柄』です。『空気を読む』という日本語があるように、私達は感情ではなく、事柄を話すことで気持ちを察して会話をしています。人は思った以上に、感情に対して意識を向けてはいないのです」
気持ちを伝えていると思っていても、じつは伝えているのは「事柄」であって、その事柄に対する気持ちを、聞き手がイメージして会話をしているに過ぎないと、神谷さんは言います。
「事柄に対して気持ちのイメージが一致している時は良いのですが、違っている場合、お互いに『わかりあえている』『通じている』という感覚を持ちながら、じつは一致していないという場合に、コミュニケーションのズレが生じます。すれ違いは、このようなことから生じます」
神谷さんは、そう説明します。
感情の理解は簡単ではない
米国デューク大学の行動経済学、ダン・アリエリー教授は、4万人の大学生を対象に、20問の計算問題を5分で解かせた後、自己採点をしてもらって答案を提出し、満点ならば6ドルをもらえるという実験を行ないました。その結果、国別、大学生の成績の優劣にも関係なく、70%の学生が嘘をつくことがわかります。
もう一つの実験では、同じ実験の前に「私は大学の倫理規定に従います」という文書にサインをさせてから計算を解かせます。UCLA大では、旧約聖書の十戒を書かせました。すると、不正はゼロになりました。この実験は、不正が人間の本質であることと、人間には誰にでも倫理規定が存在しているということを表したものです。
当時、私はEQ理論(感情、情動)の提唱者と共同研究をしていた世界唯一の研究機関で、ソリューション、戦略部門を統括する立場で活動にまい進していました。
神谷さんが言う、感情の理解とは、いま流行りの「自己肯定感」に近い考え方です。「自己肯定感」は、EQでいう、私的自己意識と抑鬱性がミックスしたもので、これらを上手くコントロールするには、楽観性やセルフエフィカシーが必要になります。
「自己肯定感」とはなにか?
子どものころ、親やまわりの大人たちが注いでくれた愛情や肯定の言葉、承認の態度があります。愛されて育った人は、自己肯定感が強いことが多く、自己肯定感が弱い人が、周囲に肯定承認を求めてもうまくいきません。
自己肯定感が弱いとネガティブに落ち込んだり、不安になったりすることがあります。さらに自己否定して、自己肯定感を弱める悪循環に陥ります。そんなとき、ポジティブに考え直すことができたら、自己肯定感を強めることができます。
疲れて仕事に集中できない社員がいたとします。「上司は、今日は疲れているね。会社に来ただけで頑張ったね。無理しないで、家に帰って休んでいても大丈夫ですよ」。このように言われれば、社員は休んでいることに後ろめたさを感じるものです。逆に、「馬鹿もん!お前はたるんでいる、そんなのは自己管理の問題だ」と言われれば、一気にやる気がなくなります。
人の自信とやる気をはぐくみ、自己肯定感を高めるコツとはなにか。この本には、人の感情を理解するためのいくつかのヒントがかくされています。(尾藤克之)