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緊急事態宣言延長の陰にインド型変異株あり! 尾身茂会長「東京五輪をやめないともう防げない」(1)

   2021年5月28日、政府は9都道県に出されていた緊急事態宣言の期限を6月20日まで延長することを決めた。

   新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず、地方にまで広がっているためだ。なかでも心配されるのがインド型変異株だ。感染力が極めて強く、従来株や英国型変異株にどんどん置き換わっていると専門家は心配する。

  • インド型変異ウイルスは感染力が強い(国立感染症研究所提供)
    インド型変異ウイルスは感染力が強い(国立感染症研究所提供)
  • インド型変異ウイルスは感染力が強い(国立感染症研究所提供)

インド型に陥落した欧州の優等生・英国

   インド型変異株がいかに恐ろしいか。中国当局の対応をみるとよくわかる。テレビ朝日(5月27日付)「中国でもインド変異株の市中感染 120万人一斉検査」が、天が降ってきたような大騒ぎを、こう伝える。

「中国で初めてインド型変異株の市中感染です。広東省広州市では5月21日以降、インド型変異株を含む新型コロナの感染者が新たに7人確認されました。中国でインド型変異株の市中感染が確認されたのは、これが初めてです。地元当局は5月26日夜から住民ら120万人のPCR検査を始めていて、48時間以内に検体の採取を完了する計画です。市内では夜通しで検査が行われ、会場周辺には長蛇の列ができています」

   中国広州市の人口は約1500万人だ。その成人人口の1割近くをわずか2日間で検査するという。中国ならではの徹底した人海戦術で、一気にインド型変異株を封じ込めようというわけだ。

   一方、英国はインド型変異株のまん延を許してしまい、大ピンチに襲われている。英国といえば、全成人の43%が2回目のワクチン接種を完了(5月23日現在)、ヨーロッパで最も感染状況が改善されているとされる国だ。

   先日、米国務省が日本を感染状況が危険な「レベル4」にアップして「渡航禁止」を勧告する対象にした際も、英国だけは「レベル3」で、他の欧州諸国はすべてレベル4だったほどだ。その「優等生」の英国がインド型変異株の猛威に見舞われ、悲惨な状況に陥っている。CNNニュース(5月28日付)「英国のコロナ新規感染者、最大75%がインド型変異株に」がこう伝える。

「ハンコック保健相は急増している新型コロナウイルスの新規感染者のうち、最大75%がインド型変異株によるものだと発表した。ハンコック氏は『(ロックダウン解除への)ロードマップを敷いたときから感染数の上昇は常に予測してきた。インド型変異株による感染の急増は一部の〈ホットスポット〉に集中している。急拡大している場所はどこでも全力で対応する』と述べ、そうした地域で検査数やワクチン接種を増やしていると説明した。(特に集中している)イングランド北部のボルトンでは過去1週間で1万7147回のワクチン接種を実施した」

   ジョンソン英首相はイングランドのロックダウン(都市封鎖)措置を6月21日に完全に解除すると発表していた。だが、この感染急拡大で延期せざるをえなくなった。それどころか、他の欧州諸国から「渡航制限」まで言い渡されるありさまになった。BBCニュース(5月27日付)「フランス政府、イギリスからの渡航者を隔離対象に インド型変異株懸念」が、こう伝える。

「フランス政府は5月26日、英国からの渡航者に7日間の隔離を義務付けると発表した。インド型変異株が英国で流行していることを受けた措置。英国では先週、インド型変異株の新規感染が3424件報告され、前の週から2111件増えた。これを受けて、欧州では英国らの渡航制限が相次いでいる。ドイツは先週、英国からの渡航者を2週間隔離すると発表。オーストリアは6月1日から、英国からの直接渡航を禁止する」

インドを抜いて感染爆発世界一になったマレーシア

   インド型変異株はアジアでも燎原の火のように広がっている。襲われたのは日本が予想もしなかった国、マレーシアだ。共同通信(5月28日付)「マレーシア、感染急拡大 人口比でインド上回る」がこう伝える。

「マレーシアで新型コロナウイルスの感染が急拡大し、人口当たりの新規感染者数がインドを超えている。変異株の流入や規制疲れなど複合的な要因だ。政府は州境を越えた移動や外食の禁止など行動制限を課したが、感染の勢いは止まらない。現地には多数の日本企業が進出しており、邦人コミュニティーにも影響が及びそうだ。英オックスフォード大の研究者らが運営する『アワー・ワールド・イン・データ』によると、人口100万人当たりの新規感染者数(7日間平均)は5月26日時点で、マレーシアが211人。インドが165人だ」

   それまで、人口100万人当たりの新規感染者数はインドがトップだから、マレーシアが一気に1位に浮上したわけだ。マレーシアを席巻している変異株の主流が、英国型かインド型かは不明だが、日本にとってマレーシアはノーマークの国だった。

   外務省が「インド型変異株の水際対策」(5月28日現在)の対象として、入国後10日間の厳しい隔離措置をとる国は、インド、ネパール、パキスタン、バングラデシュ、モルディブ、スリランカの6か国だ。ほかに、英国、カザフスタン、チュニジア、デンマークの4カ国が3日間の隔離措置の対象になる。

   ということは、インド型変異株を持ったマレーシアからの入国者が、かなりの割合で強化措置をくぐりぬけて検疫をスルーした可能性があるわけだ。

   インド型変異株は、英国型変異株と比べて感染力が1.5倍とされる。英国型の感染力は従来株の1.5倍とされるので、インド型変異株は従来型に比べ、1.5×1.5=2.25倍の感染力があるわけだ。遅かれ早かれ、従来型に置き換わるのは時間の問題だ。

インド政府への「忖度」から水際対策に遅れた

尾身茂会長の助言に耳を貸さない菅義偉首相
尾身茂会長の助言に耳を貸さない菅義偉首相

   実際、検疫をくぐり抜けてどんどん入り込んでいる。朝日新聞(5月26日)「国内で広がるインド株の脅威 検疫に限界、市中感染も」がこう伝える。

「インド型変異株の国内での感染事例が広がっている。厚生労働省の26日の発表では、これまでに国内で29人が感染していた。空港検疫では17日までに160人の感染が確認されている。検疫以外で初めて見つかったのが4月20日。その後、約1か月で数十人規模に増えたことになる。東京都発表のうち9人は、海外渡航歴がある人との接触などが確認された事例で、検疫での流入を防ぐことには限界があったことを表している。海外と直接の関連が追えない例もある」

   つまり、市中感染がすでに始まっているということだ。朝日新聞はインド型変異株の厄介な特徴も、こう書いている。

「インド型で懸念されるのが、従来株に感染した人にできた免疫の効果が弱まる可能性だ。再感染だけでなく、回復者の血液成分を使った治療法や従来株の情報でつくられたワクチンの効果に影響するおそれもある。ただ、ワクチンについては、ファイザー製の2回接種でインド型にも『有効だ』とする英イングランド公衆衛生庁の検証結果もある。世界保健機関(WHO)は、感染力が増す恐れがある『懸念される変異株(VOC)』にインド型を指定した。感染が確認されたのは、南極を除くすべての大陸の50以上の国・地域に及んでいる」

   水際対策が、大きく遅れた理由を朝日新聞がこう説明する。

「インドの1日あたり新規感染者数が37万人を超えたころで、自民党からは『水際対策の動きが遅い』(佐藤正久・党外交部会長)との厳しい指摘が出た。政府関係者は遅れの背景に『インド政府が変異株の流行を認めなかったこと』などを挙げた。インドでは連日40万人を超える新規感染者が出るようになり、5月7日には周辺国からの入国者も含め、検査回数を3回から4回に増やした。宿泊施設での待機も6日間にした。だが、政府の対策分科会の尾身茂会長から『14日間に』といった発言も出たため、5月25日に10日間まで延ばした」

   例によって、インド政府への「忖度」によって後手、後手に回ったのだ。そのうえ、インドを抜いて「感染爆発世界一」になったマレーシアを5月28日現在、いまだに除外していることは前述のとおりだ。

(福田和郎)