ねじが溶けるワケ
日東精工は、この「高純度マグネシウム」素材の開発に5年を費やした。素材が「溶ける」、独自の新たな精錬技術について、
上野さんは
「マグネシウムの結晶の『大きさ』と『純度』、『状態』の三つをコントロールすることで、マグネシウムが溶けていくスピードを制御することを可能にしました」
と説明。
骨折した部位の骨は、性別や年齢、栄養状態によって差があるものの、手術後の再骨化による修復が始まるのに、おおむね3~4週間がかかる。骨が再生する適切なタイミングでマグネシウム素材の溶解が始まり、ねじやプレートの強度が少しずつ弱まることで、骨への負荷が緩やかに増していくため、丈夫な骨の形成を促すことができるという。
この技術が「初期溶解抑制」性能で、現在、特許出願中(出願番号:特許2020-207080)だ。
上野さんは、
「技術者にとって、新しいことにチャレンジすることは、楽しいですし、常にワクワクしますよ。世の中で初めてのことを手掛ける。本当にありがたいテーマでした。失敗して、壁にぶつかってばかりでしたけど、いつかトンネルを抜けることができると信じていました。やり続けることが大事なんですよ。失敗して、分析して、一つひとつクリアしていく。その一つひとつを達成していくことが、この上なくうれしいものなんです。本当に、技術者冥利に尽きます」
と、うれしそう。
「技術的なメドはつきました。これから厚生労働省の医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査を経て、実用化していきます。この『高純度マグネシウム』でつくる(溶ける)ねじで、骨折の手術は1回で済むようになります。5年程度かかると想定していますが、患者さんのためにできるだけ早く商品化したい。そのための設備、体制を整えて、いろいろな試験をクリアしていきます。それがこれからの課題になりますし、チャレンジです」(上野さん)
製品開発は、まだまだ続く。