世界初の「ゆっくり溶ける」マグネシウム
上野さんによると、マグネシウムは生体の必須元素なので、人のカラダとの親和性があり、また余分なマグネシウムが体外に排出されることがわかっているという。
骨や体液との違いが少ないため、医療で使うX線撮影(X線透過撮影、CT画像撮影)に影響しにくく、撮影した部位を観察しやすい。また、非磁性のため、MRI(Magnetic Resonance Imaging=磁気共鳴画像)などの強磁性を加える医療診断でも影響は少ないとされる。
樹脂よりも強度がある一方で、チタン合金やステンレス合金よりも柔らかいため、加工しやすい。それにより、大人から子どもまで、カラダの大きさや損傷した部位に合わせた形状がつくれる。
ただ医療用として、マグネシウム素材が溶けても人体に安全、安心に使えるようにするには、さらに毒性を抑える必要がある。そこで同社は、一般的なマグネシウム材料に含まれるアルミニウム合金(AI)や亜鉛(Zn)、鉛(Pb)などの不純物の総量を、重量に対して0.05%以下とごく微少にすることで、純度を99.95%以上まで高めた。
こうしてできた「高純度マグネシウム」は、骨の固定に使ったプレートやねじが、その後に役目を終えてカラダの中で溶けても、高い安全性を示すとともに、骨に近い硬さとしなやかさを持つ素材となった。
これにより、病院は体内からねじやプレートを取り出さなくてもいいので、形状を気にせずに手術できる。患者にとっては手術が1回で済む(抜去手術が不要)ので、経済的な負担も軽減できるメリットもある。