加藤路瑛(かとう・じえい)さん(15)は2018年12月、12歳の時に「親子起業支援」の会社、「クリスタルロード」(東京都中央区)を設立。小中高生がライターのウェブメディアや、クラウドファンディングのプラットフォームの運営などを手掛けてきた。
会社は自身が取締役社長、母の咲都美(さとみ)さんが代表取締役を務め、他3人の役員を含む計5人が所属している。20年1月には感覚過敏の人に向けたグッズを開発・販売する「感覚過敏研究所」を立ち上げ、「せんすマスク」というヒット商品を生み出した。
そんな若き社長、加藤路瑛さんへのインタビューの前編は、「起業」に込めた思いを聞いた。
「小さい時から、働くことに憧れを持っていました」
「小さい時から、働くこと自体に憧れを持っていました。社長になりたいとかではなく、レジ打ちしたい、スーツをピシッときめて毎日通勤したい、仕事して対価をもらっておやつ買いたい...なんてことを考えていました」
小学生のとき。加藤路瑛さんが周囲に「働きたい」と言っても、返ってくるのは「大人になってから」という反応。そのため中学生までは、勉強にゲーム、友達と遊ぶなど、毎日をふつうに過ごしていたという。
小学5年生になると、理科の実験をするYouTuberになりたいと思うようになった。そのための勉強を続ける中で、中学1年生の時に買ってもらったのが「ケミストリークエスト」というカードゲーム。開発したのは、当時小学6年生だった実業家の米山維斗(よねやま・ゆいと)さんだ。
「その帯に『小学生で起業したスーパー高校生社長考案』と書いてあって。小学生で働いてる人いるじゃん! ってなったんですよ。小学生でも働けるなら僕もやりたい、じゃあ起業しようという感じで始めました」
起業を決めた加藤さんは、まず家族に相談。両親は承諾し、学校の許可を得るように促した。学校への確認は、アルバイトやメディアの出演を禁止している可能性もあったためだ。
「担任の先生に相談したら、事業計画書を書いてメールで提出してくださいと言われました。この時に初めて『事業計画書』というものを知って、自分は何をしたいんだろうと考えるようになりました。学校に相談した時に初めて、『起業したい』から『何をするか』に変わりましたね」
そこで考えたのが、「親子起業支援」だ。かつての加藤さんのように、起業したいと思いながら、自分が大人になるのを待っている人に、「子どもでも起業できることを伝えたい」と考えた。
事業計画書には、「赤点を取らない」「宿題をちゃんと出す」といった、学問と両立するうえでの約束事も記載。その効果もあってか、事業計画書は認められ、担任教師が学年主任と教頭に許可を取ってくれた。
最後に行ったのが、校長先生へのプレゼンテーションだ。加藤さんは、これが初めてのプレゼン体験だったと振り返る。
「まずはアポを取ろうと思って校長室に行ったところ、校長先生に『いま時間空いてるから話しなよ』と言われたのでプレゼンしました。ですが、最後に『アポをとってから来てね』と言われてしまって......(笑)アポを取るために行ったのに、みたいな。アポを取る大切さは分かりました。」
ウェブメディアを設立も「技量がまったく足りてなかった」
学校の許可を得た後は、資金調達のためにクラウドファンディングを実施。115万4500円の支援を得て、起業を思い立ってからおよそ半年後の2018年12月に「株式会社クリスタルロード」を設立した。現在は通信制の高等学校に通いながら、仕事をしている。
最初に手掛けた事業は、小中高生だけで運営するウェブメディアだ。親子起業支援とは少し違うように思われるが、それにはこんな理由があった。
「最初は小中高生の起業を支援するために、お金を集めるプラットフォームや、小中高生と企業をマッチングさせる仕組みを作りたいと思っていました。それをいろんな人にプレゼンしたところ、『小中高生で起業したい人いるの?』『まだ成功してないのにやるの?』ということを結構言われて。まずはわかりやすいものから始めようということになりました」
新しい職業を生み出す可能性の場になればいい――。そんな理想を掲げて立ち上げたウェブメディア。小中高生のライターが様々な職業の人にインタビューをして記事を書き、加藤さんは編集長としての役割を担った。
記事には「投げ銭」機能を付け、そこに入ったお金がライターの収入になった。運営は1年以上続けたが、ただ結果は満足のいくものではいかなかった。
「編集長としての技量がまったく足りてなくて、みんなをまとめることがあまりできなかったんですよね。小中高生でやっているというせっかくの利点があるのに、大人のクオリティを目指してやってしまったのが反省点です。小中高生の良さを出すんじゃなくて、大人が書いたように読みやすくてすらっとした記事を書こうとしてしまって。いま考えたら惜しかったなと思います」
ビジネスとしては成功とはいえない――。そう話す加藤さんだったが、ウェブメディアからは始めたことによる利点もあった。メディアを運営していく中で、文章を書く力やコミュニケーション力の上達、名刺交換などのビジネスマナーが身についたという。
その後、小中高生と雑誌制作、クラウドファンディングのプラットフォーム立ち上げなどの事業を手掛けたが、納得のいくものはできなかった。
(後編につづく)
(会社ウォッチ編集部 笹木萌)