父も務めた会長職、「本格政権」の看板を引き継ぐ大物!
会社の規模と経営者の実力は分けて考えるべきだが、経済団体のトップは出身企業の「社格」が何かとつきまとう。
前任の榊原氏の東レ、その前の米倉氏の住友化学がいずれも売上高2兆円規模だったのに対し、企業向けだけではなく一般消費者向けの製品を数多く手掛けて知名度が高く、連結売上高が8兆円を超える日立のトップだった中西氏が経団連会長に就任すると、「大物会長」「本格政権」との期待が高まった。こうした意味で今後の経団連会長の候補として期待を寄せられているのが、トヨタ自動車の豊田章男社長だろう。
世界でも一、二を争う自動車メーカーであり、豊田氏自身も2009年の社長就任後の実績は申し分なく、このコロナ禍でも増益を果たした。おまけに実父の章一郎氏も、経済団体連合会時代の経団連で会長を務めた。
豊田氏の慶応大ホッケー部の後輩であり、丸紅で財界スタッフを長く務めた元秘書部長が2020年にトヨタに入社した際には、「財界活動に向けた布石ではないか」と、ざわついたこともあった。
だが、一方で「トヨタが経団連に距離を置き始めたのでは」との見方も浮上している。2021年6月の定時総会をもってトヨタ自動車副会長の早川茂氏が経団連の副会長から審議員会副議長に移るが、その後任の副会長をトヨタは出さない。少なくとも旧経団連と日本経営者団体連盟(日経連)が合同して今の経団連になった2002年以降、トヨタは会長か副会長を常に出してきており、それが途切れることをもって、距離を置くのではとする見方だ。
それでも、2022年以降に豊田氏が経団連副会長に就任すれば、状況は一変して「ポスト十倉」の最有力に浮上する。4年後に向けた駆け引きは、すでに始まっているのかもしれない。(ジャーナリスト 済田経夫)