7月23日の開会式の日が迫るにつれ、中止を求める声が強まりつつある東京オリンピック・パラリンピック。実際に大会を中止した場合の経済的損失が1兆8000億円規模になる可能性のあることが、野村総合研究所の試算で示された。
試算したのは、エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏。木内氏は、経済損失は緊急事態宣言1回分のほうが大きいことを指摘し、開催・中止など大会をめぐる判断は「感染リスクへの影響という観点に基づいて慎重に決定されるべき」と主張している。2021年5月25日、野村総研の自身のコラムで発表した。
「無観客」なら1468億円減
野村総合研究所の木内登英氏は、東京都が2017年4月に公表した「東京2020大会開催に伴う経済波及効果」や、「東京2020組織委員会」が20年12月に大会延期を踏まえ経費の削減などを反映させて更新、公表した「組織委員会予算V5(バージョン5)」と、海外からの観客の支出に関する自身の試算に基づき「現時点での大会開催の経済効果」をまとめた。
観客については今年3月に海外から受け入れない方針を決定。国内では、どの程度の観客数を受け入れるかは6月に決められる予定だ。そのため、この試算は「国内観客は制限なく受け入れるケース」で、新型コロナウイルスの感染対策も盛り込み、大会開催の経済効果が1兆8108億円になると弾き出した。「大会が中止となれば、同額の経済損失が生じる計算」だ。
海外観客の受け入れ断念で海外向けに販売された60万枚のチケットについて組織委は払い戻しをすると発表したが、木内氏の試算では、海外観客に販売されたチケットはすべて国内観客に回るものとして算出した。
今後の新型コロナウイルスの感染動向によって、国内観客の受け入れ程度は変わる見込み。木内氏は「国内観客数がまったく制限されない可能性は低く、無観客開催となる可能性も相応に高いと考えられる」とみる。
そのため、国内観客に制限がある場合として、「半数受け入れ」、「4分の1受け入れ」、「無観客」の3つのケースを想定し、「1兆8108億円」の経済効果に対する、それぞれの損失を試算した。
それによると、「半数」では経済効果は734億円減で、全体の経済効果は1兆7374億円が見込める。また、「4分の1」では1101億円減で経済効果は1兆7007億円、「無観客」の場合の経済効果は1468億円減って1兆6640億円となった。