開幕まで残り60日を切った東京五輪・パラリンピックに大打撃を与える事態が降ってきた。
最大の選手団を送り込む予定の米国の国務省が、日本の新型コロナウイルスの感染状況を「極めて危険」と断定。「日本への渡航中止」を勧告すると発表したのだ。いったいどうなる?
「ワクチン接種しても日本で変異株に感染する」
「日本の新型コロナウイルスの感染状況は極めて危険だ。日本に渡航することを中止するよう勧告する」
米国務省がこんな衝撃的な内容を発表したのは、2021年5月25日未明(日本時間)だった。朝日新聞(5月25日付)「米国務省、日本への渡航中止を勧告 変異株の拡大を指摘」が、こう伝える。
「米国務省は5月24日(現地時間)、日本国内で新型コロナウイルスの感染が拡大している問題を受け、日本への渡航警戒水準を最高レベルの『レベル4』に引き上げ、『日本には渡航するべきではない』と『渡航中止』を勧告した。約2か月後に迫った東京五輪・パラリンピックの開催を不安視する見方が強まる恐れがある。これまで日本への渡航は『レベル3』の『渡航再検討」だった』」
これは、感染症対策の総合研究所である米疾病対策センター(CDC)が同日、渡航情報を更新して日本の新型コロナ感染状況を4段階のうち、最高レベルの「極めて高い」という「レベル4」に引き上げたことを踏まえた判断だった。CDCは、
「日本の現在の状況では、ワクチン接種を終えた人でも変異ウイルスに感染し、感染を広めるリスクがある。あらゆる渡航をやめるべきだ」
と警告したのだった。
日本では、新型コロナウイルスのワクチン接種が他の先進国に比べて大幅に遅れ、東京都や大阪府など10都道府県では緊急事態宣言が続いている。いったい、東京五輪・パラリンピックへの影響はどうなるのだろうか――。
朝日新聞記者が、米国務省の報道担当者に取材すると、こう答えたのだった。
「米国人の旅行者が東京五輪のために日本に出かけるのは、極めて限られている。日本政府と国際オリンピック委員会(IOC)が、東京五輪の開催を注意深く検討していることを我々は理解している」
どうもわかったようで、よくわからない回答だ。
一方、日本経済新聞(5月25日付)「米、日本への渡航『中止勧告』警戒レベル最高に」によると、こういうことだ。
「CDCは『あらゆる日本への渡航をやめるべきだ』と警告した。渡航中止勧告に法的拘束力はなく、米国から日本への渡航自体は引き続き可能だ。CDCは、どうしても日本を訪れなければいけない場合は、『渡航前にワクチン接種を必ず完了する』よう求めた」
つまり、絶対に日本に行くことができないわけではないのだ。現に、航空経済ニュースサイト「Aviation Wire」(5月25日付)によると、米国務省の「日本渡航中止」勧告という事態を受けても、米国行き便を運航するJAL(日本航空)とANA(全日本空輸)は、今のところ減便や運休の予定はなく、運航を継続するという。
放映権を持つNBCは「五輪を放送する」
ここで、米国務省のトラベル・アドバイザリー(渡航情報)の仕組みをおさらいしておこう。同省のホームページをみると、渡航警告レベルが4段階に分かれている。最高に危険なレベル4「渡航を中止せよ」(Do not travel)、レベル3「渡航を再考せよ」(Reconsider Travel)、レベル2「Exercise Increased Caution」(注意して行動せよ)で、レベル1はない。それぞれの国ごとに感染状況の実態、そして渡航するにあたっての注意事項が詳しく書き込まれている。
日本はこれまで「レベル3」だったが、今回、レベル4に引き上げられたわけだ=写真参照。
ちなみに、非常に危険な「レベル4」は約150か国・地域で、全世界の7割以上に達する。ドイツ、フランス、スペイン、イタリア、デンマークなどイギリスを除くヨーロッパのすべての国が含まれる。ほかにインドネシア、北朝鮮、タイ、インド、ロシア、メキシコ、ブラジルなど。「レベル3」は計42か国・地域で、イギリス、イスラエル、台湾、中国、モロッコなど。比較的安全な「レベル2」は計16か国・地域で、韓国、シンガポール、ベトナム、ブータン、ジンバブエ、ザンビアなどだ。
今回の米国務省の「日本への渡航禁止」勧告を海外メディアは大きく取り上げた。米ブルームバーグ通信は「五輪を開催する準備は整っていると、日本国民や国際社会を納得させようと四苦八苦している日本にとって、新たな打撃となった」と報じた=写真参照。
CNNテレビも「日本は、開催に向けてますますハードルが増える状況に直面した。医療従事者の不足し、他のアジア諸国と比べてもワクチンの普及が遅れている。全米25州の成人の50%がワクチン接種を終えた米国と比べて著しく対照的だ」と、ワクチン接種の遅れが米国務省の懸念を招いたと報じた=写真参照。
また、AP通信も「今回の国務省の発表が、米国選手の参加の判断に影響を与える可能性がある」と指摘した。
注目すべきは、東京五輪のテレビ放映権を独占し、IOCに絶大な影響力がある米NBCニュースもCDCが「日本への渡航中止」を警告したことを報じたことだ。ただし、記事の最後に、
「NBCは東京五輪を放送する」
と明言した。その理由としてあげたのが、IOCのジョン・コーツ副会長が、「東京が緊急事態宣言下でも絶対に開催する」と記者会見で述べた次の言葉だった。
「参加するすべての人にとって安全であり、日本の人々にとっても安全であることが明白になった」
NBCのこうした姿勢もIOCに負けず劣らず日本国民の神経を逆なでしそうだ。
(福田和郎)