開幕まで残り60日を切った東京五輪・パラリンピックに大打撃を与える事態が降ってきた。
最大の選手団を送り込む予定の米国の国務省が、日本の新型コロナウイルスの感染状況を「極めて危険」と断定。「日本への渡航中止」を勧告すると発表したのだ。いったいどうなる?
ワクチン接種が遅れる日本への無言の圧力か
東京五輪の開幕まで2か月を切った時期に、突然、米国務省が発表した意図はどこにあるのだろうか。日本経済新聞(5月25日付)のオンライン版の記事に付く「ひと口解説」で、編集委員・論説委員の峯岸博記者が、こう説明している。
「米政権の姿勢は一貫しており、日米同盟の結束とは別に、日本の感染対策を厳しく見つめるシビアな目が伝わってきます。東京五輪開催をめぐりバイデン大統領はかねて『科学に基づいて判断すべきだ』と客観的なデータに基づいて開催の可否を判断すべきだとの考えを示していました。4月の日米首脳会談でバイデン氏来日の話題はなく、バイデン氏が菅首相に伝えた『支持』も、開催そのものではなく『開催するための首相の努力』に対するもの。今回の米国務省の決定は、ワクチン接種が大幅に遅れる開催国・日本への無言の圧力でしょう」
同じく、編集委員の北川和徳記者もこう解説した。
「五輪・パラへの逆風がますます強まることになります。選手を派遣するのは米国の五輪・パラリンピック委員会であり、政府ではありません。これで米国選手団を派遣しないということにはならないですが、参加を見合わす選手が出てくる可能性はあります。この動きが他国にも広がったらと考えると嫌ですね。国民に渡航の中止を勧告する国で五輪を行うのかという意見も出てくるでしょう」
その米国五輪・パラリンピック委員会(USOPC)はすぐさまメディア向けの声明を発表した。共同通信(5月25日付)「米国代表の五輪出場に影響なし 渡航勧告受け、USOPC声明」によると、USOPCのスポークスマンは、
「われわれは、国務省の勧告を理解している。選手やスタッフに対する感染予防策を講じるほか、日本への渡航前と到着後、五輪期間中にも検査を受けるので米国選手の安全な参加に自信を持っている」
として、約600人の選手団を派遣すると述べたのだった。
五輪関係者へのなりふり構わぬ優先接種
これを受けて、丸川珠代五輪担当大臣や加藤勝信官房長官が5月25日、相次いで記者会見を開き、「米国の五輪委員会も選手団を派遣すると言っているし、影響はない」と強気のコメントを発表した。
しかし、さすがに米CDCや海外メディアから「開催国とも思えない、ワクチン接種の甚だしい遅れ」を突かれたのがよほど痛かったのだろう。丸川五輪相は、「医療従事者や高齢者を差し置いて、選手に優先接種させる気か」という猛批判の何のその、選手以外の大会スタッフにも大量にワクチンを接種させると発表したのだ。
デイリースポーツ(5月25日付)「丸川五輪相 大会関係者へも無償ワクチン提供を発表 選手団と合わせ2万人分」がこう伝える。
「丸川珠代五輪相が5月25日、東京五輪・パラでIOCが無償提供する米製薬大手ファイザー社製のワクチンを、日本選手団以外の一部ボランティアや通訳、審判員ら大会関係者にも提供すると発表。2500人分の選手団分も含め、約2万人分となり、選手との接触具合に応じて対象を決定する。丸川五輪相は『日本選手団はチームドクターによる接種で、6月上旬を目途に実施する。また一体となって活動する審判や、選手と接触するスタッフへの接種を調整していきたい』と説明した」
米国からパートナーとして無能の烙印
こうした頑なに東京五輪開催に爆走する日本政府やIOCの姿勢にネット上では、こんな批判が殺到している。
在米ジャーナリストの飯塚真紀子さんは、こう指摘した。
「CDCは、日本は〈非常に高い感染レベル〉の国であると認定し、新たな指針で『日本の現在の状況では、ワクチン接種を完了した旅行者も変異株に感染し、感染を拡散するリスクがあるため、日本へのすべての渡航を避けるべきである』としています。米国務省は勧告の中では東京五輪については特に言及していませんが、五輪開催2か月前の渡航中止勧告とあって、先日、IOCのコーツ氏が『緊急事態宣言下でも五輪を行う』と発言したことに触れている米メディアもあります。この勧告が参加を予定しているアスリートの判断にどんな影響を与えるか注目されるところです」
また、こんな意見が多かった。
「ワクチン接種率が低い国がどうなっているかは、アメリカが一番理解しているはず。国連のグテーレス事務総長も世界保健総会の開会式で『我々はウイルスと戦争をしている。戦時体制の論理と緊急性が必要だ』と発言したばかり。今、日本で五輪を開催することは、世界大戦中と同じという意味だと思う。すでに日本ではインド株が広がっている。アメリカの判断はそこまで考えていると信じたい」
「ワクチン輸入からワクチン接種開始までのタイムラグが1・5か月かかっていること。これを異常と認識しない日本に米国が呆れ返り、怒りの警告を始めたとみるべき。ファイザーをEUは日本に最優先で提供しているのに。自衛隊まで動員してもアベノマスクを配った時と同じスピードでしか動けない日本。五輪以前に、米国は国防パートナーとして無能の烙印を押したのです」
「これはアメリカから日本政府への最後通牒ですよ。アメリカが日本への渡航中止を出すのは、東日本大震災の福島第一原子力発電所の事故以来。今の日本の状況をあの時と同じだと判断したということです。この状況でバイデン大統領が選手団を派遣するでしょうか?」
「いくら菅首相や橋本聖子会長が『安心・安全な大会にするため、しっかり対応している』と言っても、客観的にみて、『全然ダメ』とハッキリ評されたかたち。本当に情けない。まったく不甲斐ない!」
「五輪が大変なモンスターになってしまった」
選手や大会スタッフへの「ワクチン優先接種2万人」にも怒りの声が。
「またオリンピック優先か!国民の7、8割が開催に反対しているなか、ますます世の中の反感を買うだろう。まず医療従事者、高齢者を優先して、次いで基礎疾患のある者と取り決めて、医療従事者もまだ終わっていないのに!」
「IOCのバッハ会長がつい本音を漏らした『犠牲を払ってでも』という犠牲者は、われわれ日本国民しかいないでしょう。何のための五輪ですか。開催する意義がどこにありますか」
最後にこんな声を紹介したい。
「オリンピックって、大変なモンスターになってしまった。誰も制御できないのだから」
(福田和郎)