タクシー事業者が天気や曜日などによって運賃を変動させる、新しい制度の検討が始まった。
政府の規制改革の一環で、国土交通省が海外事例などを含めた調査に着手した。タクシー業界にとっては需要増が期待できるが、利用者の負担増につながらないかなど課題もある。
タクシー運賃、夜中や平日の昼間は「お安く」
タクシーは現在、法律で定められたメーターを取り付け、基本的に走行距離や乗車時間で料金を算出している。
新たに検討が始まった変動料金制とは、雨が降った時や人気アーティストのコンサートなど大規模な催しが開かれた際などに運賃を高くしたり、お客が少ない夜中や平日の昼間は低くしたりと、需要によって運賃を変える仕組みだ。
従来のメーターの代わりに、全地球測位システム(GPS)の情報を基に走行距離を計算する新たな機器を取り入れることも検討されている。お客は事前にスマートフォンなどで予約する仕組みとし、提示される運賃に納得がいかなければ利用しない――など、スムーズに活用できる方法が検討されている。
景気低迷に加え、コロナ禍で利用者は急減しており、タクシー業界の経営は厳しい。雨天など需要が増える際に運賃を上げられれば、収益改善に結びつく可能性が高い。さらに、運賃が安い時間帯を作れば、これまで利用しなかった人でも気軽に乗車してくれる可能性があり、新たな需要が生まれることも期待できるので、タクシー業界は導入を希望してきた。
そんななか、河野太郎規制改革担当相が2021年1月の記者会見で、「タクシーの利便性向上に取り組む」と述べ、変動運賃制の早期導入に意欲を示した。それにより、導入に向けた気運が急速に高まった。国交省は年内にも実証実験に着手し、新しい制度の詳細を詰める方針だ。
広がる「ダイナミックプライシング」の波
ただ、導入に際しては課題も少なくない。需要の多い時に運賃が上がる結果、大勢の利用者の負担が重くなる可能性が高い。特に、割り増しの程度次第では、タクシーを利用できなくなる人が出てくるかもしれない。
お年寄りや体が不自由な交通弱者が雨天にタクシーを使えないような事態になれば、社会的に許容されないだろう。
需要動向によって価格を変動させる方式は「ダイナミックプライシング」と呼ばれ、さまざまな業界に広がっている。すでにホテルの宿泊料金や航空運賃などで導入されており、当たり前のように受け入れられている。
最近ではスポーツ観戦や高速バスの運賃などでも導入され、IT化の進展やコロナ禍による企業の経営悪化から、この動きはさらに拡大するとみられている。
現在は特に、鉄道でラッシュ時にアップするといった変動運賃制導入の行方が注目を集めているが、公共性の高いサービスの料金については慎重な対応も求められている。(ジャーナリスト 済田経夫)