新型コロナウイルスの感染拡大は、企業の新卒採用にも大きな影響が出ている。
2021年5月18日に厚生労働省と文部科学省が発表した、この3月に卒業を迎えた大学、短期大学、高等専門学校、専修学校の就職率は、軒並み前年を下回った。
就職率の悪化は男子学生に色濃く出る
厚生労働省と文部科学省は大学、短期大学、高等専門学校、専修学校の計112校、6250人の4月1日時点の就職状況を調査した。それによると、大学生の就職率は96.0%で、前年の98.0%を2ポイント悪化した。
男子大学生は95.0%と前年の97.5%から2.5ポイントの悪化。女子大学生は97.2%と前年の98.5%から1.3ポイント悪化した。就職率の悪化は、女子大学生に比べ、男子大学生に色濃く出ている=表1参照。
しかし、より大きな影響を受けたのは、専修学校生で91.2%と前年の96.8%から5.6ポイントも悪化した。また、短大女子は96.3%と前年の97.0%から0.7ポイントの悪化となった=表2参照。
2008年に発生したリーマンショック後も就職率は大きく悪化。大学生全体の就職率は09年3月卒95.7%、10年3月卒91.8%と推移し、11年3月卒の91.0%で底打ちした。また、男子大学生は11年3月卒の91.1%、女子大学生も11年3月卒の90.9%で底打ちした。
就職率がリーマンショック前の2008年3月卒の大学生全体96.9%、男子大学生96.9%、女子大学生97.3%の水準に回復するまでには、大学生全体で8年、男子大学生で9年、女子大学生で8年かかっている。
同様に短大女子の場合には、09年3月卒94.5%、10年3月卒88.4%と推移し、11年3月卒の84.1%まで悪化。専修学校も09年3月卒91.8%、10年3月卒87.4%と推移し、11年3月卒の86.2%と大幅に悪化して底打ちした。
コロナ禍後に増える!? 非正規雇用者
短大女子の就職率はリーマンショック前の2008年3月卒で94.6%、専修学校は93.7%で、この水準に回復するまでに、短大女子、専修学校とも5年かかっている。
このように、コロナ禍により悪化した就職率も、21年3月卒だけではなく、来年以降にも影響を与える可能性がある。
また、就職率はあくまでも「就職希望者」に対する就職者の割合を示すものだ。たとえば、リーマンショックの影響が就職率に最も大きく現れた11年3月の大卒の場合、就職希望者数37万1000人に対して33万7000人が就職したため、就職率は91.0%となった。
しかし、実際の11年3月の大学卒業生は55万5000人なので、就職者数の33万7000人は、卒業生全体の60.7%でしかない。これが実際の就職率だ。
今回の2021年3月卒では、大学生の就職希望率は76.0%と前年より0.1%ポイント低下した。男子大学生では70.6%で同0.6ポイント、女子大学生では83.4%で1.6ポイント低下した。また、短大女子では78.7%で5.0ポイント、専修学校では87.1%で1.3ポイント低下した。
さまざまな理由により就職希望率は低下するが、その中でも景気の悪化などにより、企業の採用状況が悪化することで、就職を諦める動きが出ることも確かで、2021年3月卒の場合には、それが顕著に出ている。
人の生活、人生を決める大きな要素の一つでもある「就職」が、経済動向や新型コロナウイルスのような災厄によって左右され、たまたま同じ時期に就職期を迎えた新卒者のその後の人生に大きな影響を与えるのは、何とも割り切れない。
リーマンショック後には、就職の悪化とその後の就職率回復の遅れにより、非正規雇用者の増加につながった。コロナ禍による就職率の悪化が、新たな非正規雇用者の増加につながることのないように、政府は十分な対策を進めるべきだ。(鷲尾香一)