上場企業の2021年3月期決算は、新型コロナウイルスが蔓延した中でも、全体では3年ぶりの増益となった。
ただ、製造業が急回復する一方、非製造業は外出自粛などの影響で落ち込み。また、同じ業種の中でも明暗が分かれ、順調に上向く企業と回復に手間取る企業が上下に二極化する「K字回復」の傾向が改めて鮮明になっている。
電機は急回復の代表格
SMBC日興証券が2021年5月14日までに発表された東京証券取引所の市場第1部上場(金融を除く)の1298社(全体の97.2%)の決算を集計したところ、売上高は合計で前期比7.6%減った一方、最終(当期)利益は約24兆円と、同28.9%増えた。
投資先海外企業の株価上昇で5兆円近い利益を1社で叩き出したソフトバンクグループ(G)を除くと2.2%減と、ほぼ横バイだったが、コロナ禍の影響を考えると、全体として堅調といえる数字だ。
製造業と非製造業を比べると、製造業は36.1%増益を記録。1年前の最初の緊急事態宣言のころは生産が収縮したが、中国や米国の需要回復、巣ごもり需要で急回復した。一方の非製造業はソフトバンクGを除くと36.4%の減益だった。交通・運輸、旅行・レジャー、外食などサービス業で大きく落ち込む企業が続出した。
詳しく見ていこう。製造業では電機が急回復の代表格だ。J-CASTニュース 会社ウォッチでも詳報したソニーグループ(2021年5月11日付「ソニーが純利益1兆円『複合企業』で稼ぐ力アップ 今後の主力は『娯楽』 M&Aにも前のめり」)、任天堂(5月17日付「コロナ禍で絶好調! 任天堂が早くも問われる『巣ごもり需要』後の一手」)が、そろって「巣ごもり需要」の恩恵を受けた主力のゲーム機の好調などで、ソニーは初の最終利益1兆円、任天堂の利益も前期比85%増の4803億円と、12年ぶりに過去最高を更新した。
ゲームだけではない。日本電機工業会のまとめでは、冷蔵庫、エアコンなど白物家電の2020年度の出荷額は1996年度以来24年ぶりの高水準になり、業界全体を潤した。ただ、個別企業の決算は製品構成などでまだら模様だ。
パナソニックは、家電は好調だったものの、自動車や航空関連向けへの依存度が高い分、コロナ禍に対応した需要を十分に取り込めなかったことから、売上高は25年ぶりに7兆円を下回り、3割近い最終減益になり、ソニーなどと明暗を分けた。
世界的な供給不足で「半導体」は好調
こうした家電中心のメーカーに対し、インフラや工場などが中心の各社では、日立製作所が前期の5.7倍の5016億円と過去最高益を記録した。ITや人工知能(AI)を使って設備を効率的に運用・管理するサービスの需要増などが貢献した。富士通やNECも、企業のテレワークや学校の遠隔授業を支援するシステムなどが伸び、それぞれ2027億円、1496億円と、最高益を更新した。
自動車は海外経済の回復を受けコロナ禍による打撃からいち早く脱した業種の一つだ。SMBC日興証券によると、東証1部に上場する自動車など輸送用機械の21年3月期の最終利益は前期比6割増に達する。
この代表がトヨタ自動車で、最終利益2兆2452億円(前期比10.3%増)を計上した。感染拡大を早期に収束させた中国をはじめ、経済活動が回復傾向の米国で販売が伸びた。ホンダも中国で過去最大の179万台を売るなどで同44.3%増の6574億円。スズキが同9.1%の1464億円。スバルは前期から半減したものの、米国でシェアを伸ばして765億円の黒字を確保した。
一方、コロナ禍より前からの課題克服のテンポで差をつけられた3社は赤字に沈んだ。日産自動車が4486億円の赤字と3期連続の赤字を計上、中国での新車投入の遅れ、米国での過剰な値引きの是正による販売低迷などが響いた。三菱自動車が3123億円の赤字、マツダも316億円の赤字だった。
パソコンや家電、自動車の好調は「すそ野」にも波及している。家電や車向けのコンデンサーが売れた村田製作所、家電向けバッテリーのTDKなどが売り上げを伸ばした。なかでも世界的に供給不足が問題になっている半導体関連では、製造装置の特需で国内最大手の東京エレクトロンなどが好業績に沸いている。(ジャーナリスト 白井俊郎)