上場企業の2021年3月期決算は、新型コロナウイルスが蔓延した中でも、全体では3年ぶりの増益となった。
ただ、製造業が急回復する一方、非製造業は外出自粛などの影響で落ち込み。また、同じ業種の中でも明暗が分かれ、順調に上向く企業と回復に手間取る企業が上下に二極化する「K字回復」の傾向が改めて鮮明になっている。
「人」か「荷物」か、明暗分かれた運輸業界
非製造業は全般に厳しい。2月期決算が多い小売り関係は。J-CASTニュース 会社ウォッチ「小売り明暗『巣ごもり需要』の取り込みが分かれ目 どうなった!? スーパー、コンビニ、衣料品、百貨店.....」(2021年04月27日付)、で詳報したように、食品スーパーやドラッグストアが好調で、百貨店はボロボロ、コンビニは全体に低迷するなか、企業間で差が広がっているほか、衣料品はカジュアル品が好調、ブランド品は苦戦――と、悲喜こもごもだ。
外食は数字の緊急事態宣言や蔓延防止措置で客数が激減したところが多く、全体に厳しい。
居酒屋大手のワタミは既存店売上高が前期から6割も減り、不採算店の閉鎖に伴う損失も加わり、115億円の最終赤字(前の期は29億円の赤字)に拡大した。
「甘太郎」「牛角」を運営するコロワイドは97億円の赤字、「はなの舞」のチムニーも90億円の赤字を計上。「すき家」のゼンショーホールディングス(HD)は、特に「ココス」などレストランが苦戦し、8割の大幅減益になった。
一方、「ケンタッキー・フライド・チキン」を展開する日本KFCHD、「モスバーガー」のモスフードサービスは、巣ごもりで持ち帰りが増え、それぞれ82.9%、173.1%の増益。「マクドナルド」の日本マクドナルドHD(12月期決算)も同様に好決算だった。
運輸業界は運ぶのが「人」か、「荷物」か、で明暗分かれた。
航空大手2社がそろって最終赤字となったことは、J-CASTニュース 会社ウォッチ「航空決算、コロナ禍で空前の赤字 ANAとJAL、急回復の『頼みの綱』はワクチン接種」(2021年5月15日付)、で詳報したとおり。ANAHDが過去最大の4046億円の最終赤字を計上、日本航空(JAL)も2012年の再上場後で初となる2866億円の赤字になった。
鉄道も、観光の激減に加え、通勤・通学もテレワークや遠隔授業の影響で落ち込み、大手21社全社が赤字という、惨憺たる決算。赤字額は、旧国鉄のJR東日本5779億円、JR西日本2332億円、JR東海2015億円とそろって巨額を計上。民鉄では西武HDの723億円、近鉄グループHDの601億円の赤字が目立ち、ホテルなどレジャー関連を多く抱えたところの打撃が大きかった。近鉄は8ホテルを売却するほか、債務超過に陥っていた傘下の旅行大手「KNT-CTHD」に対し主取引銀行とともに計400億円の資本支援を行う。
一方、「ヤマト運輸」のヤマトHDは最終利益が前期の約2.5倍と過去最高を更新。巣ごもりで電子商取引(EC)が急拡大したことが追い風となったといい、メルカリやヤフオクなどに特化した新サービスも好調。佐川急便を傘下に持つSGHDの利益も57.2%増の743億円と過去最高になった。ちなみに、航空2社も、貨物に限れば」好調だった。
海運3社は、海上コンテナが世界的に不足して運賃が上がった恩恵を受け、最終利益は日本郵船が前期の4.5倍、商船三井が2.8倍、川崎汽船は20.6倍だった。
「巣ごもり」で伊藤忠が5年ぶり首位
商社は大手7社中、住友商事が赤字、5社も減益と、全体にコロナ禍の影響で厳しい決算だった。その中で、巣ごもりで食料品や情報通信関連が堅調だった伊藤忠が最終利益で、期初見込んだ4000億円を上回る4014億円(前期比19.9%減)を計上し、5年ぶりに首位になった。
前の期まで首位だった三菱商事は、資源価格の低迷や子会社のローソン株の減損処理などが響き、最終利益は67.8%減の1725億円となり、4位に転落した。三井物産も資源関連の不振が足を引っ張る一方、前の期に過去最大の1974億円の赤字を計上した丸紅は、食料などが好調で黒字に転じるなど、明暗が入り乱れている。
2022年3月期は、コロナでの大きな落ち込みからの回復を見込む企業が多い。5月13日時点のシンクタンクのまとめでは、東証1部の約950社の最終利益の見通し(合計)は、製造業が前期比23.4%増、非製造業が同70.9%増となった(変動の大きいソフトバンクGを除く)。非製造業では、「谷深ければ山高し」というわけで大幅増益、黒字転換を見込むところが多い。
ただ、特に非製造業ではワクチンの迅速な摂取で人の流れが戻ることを、期待を込めて想定している部分が大きい。「ワクチン接種が遅れれば、業績回復の足を引っぱる可能性がある」(大手紙経済部デスク)だけに、先行き、楽観は禁物だ。(ジャーナリスト 白井俊郎)