財源は問題ない
財源をどうするかという疑問が当然起きるだろう。「コロナ危機下にある現在では、とにかく国債を発行し、追加の一律現金給付をできる限り数多く実施するのが先決だろう」と書いている。
「政府の借金はインフレをもたらさない限り問題ではない」という「現代貨幣理論」(MMT)の理論を紹介した上で、井上さんはMMTに全面的に賛成というわけではないが、財政赤字は長期的にも問題ではないという立場だ。
「日本の衰退を止めるには『反緊縮政策』を実施するしかない。これは政府支出を引き締めるのとは逆の政策だ。科学技術や教育、防災、インフラの整備に、政府が積極的に支出するだけでは不十分だ。国民に対して膨大なお金をバラまいて、需要を喚起し、穏やかなインフレ好況状態をつくり出し、それを持続させる必要がある。それ以外に長らく続いた経済停滞から、速やかにかつ完全にオサラバし、この国をよみがえらせる方法はおよそ見当たらない」
割愛したが、政府の「借金」はどこまで可能か、という点については、相当専門的な議論を展開している。また、最近流行の脱成長論とグリーン・マルクス主義についても批判的に紹介。中国の経済力、科学技術の水準についても正当に高く評価しており、日本が対抗していくためには、「反緊縮加速主義」を掲げ、日本人はもっと豊かになるべきだ、と締めくくっている。
「『現金給付』の経済学」
井上智洋著
NHK出版
968円(税込)