アフターコロナの日本経済を活性化するためには、政府が膨大な現金をばらまいて需要を喚起し、緩やかなインフレ好況状態をつくり出すことが必要だ、と主張する経済学者の本が出た。
本書「『現金給付』の経済学」(NHK出版)の帯には、「『バラマキ』こそが、最適解だ!」とある。一見、過激な内容だが、主流派経済学、MMT(現代貨幣理論)の両面から注目されて
いる。「『現金給付』の経済学」(井上智洋著)NHK出版
コロナ危機で高まったベーシックインカムへの動き
著者の井上智洋さんは、慶応義塾大学経済学部准教授。専門はマクロ経済学、貨幣経済理論、成長理論。著者に「人工知能と経済の未来」(文春新書)、「AI時代の新・ベーシックインカム論」(光文社新書)などがある。
コロナ禍の2020年、「特別定額給付金」が全国民に一律10万円給付された。これは一時的なベーシックインカム(BI)に位置づけることができるという。AIによる失業や貧困が一般化するとBIが必要だという議論はあったが、「コロナ危機が時代を10年早送りした」と井上さんは見ている。
「コロナ不況と経済政策」で、コロナの感染拡大に伴う自粛要請によって、消費が減少する「一次的不況」に続き、家計や企業の減収によってもたらされる「二次的不況」が起きる不況はスパイラル的に深刻化し、長期化する。
二次的不況に至らないようにするには、企業に対する支援と家計に対する支援が必要で、前者が「持続化給付金」や「家賃支援給付金」で、後者が「特別定額給付金」だ。これらの支援は不十分で、二度目の実施、さらに家計支援のためには、国民全員に毎月10万円給付するような政策が理想的だという。
アメリカでは、すでに3回目の現金給付がバイデン政権によって行われている。給付額は1回目が最大1200ドル(約13万円)、2回目が最大600ドル(約7万円)、3回目は最大1400ドル(約15万円)だ。未成年者は減額されており、所得制限もあるが、大胆なバラマキを行っていることは確かだ。
財政規律を守るために、バラマキを批判する人もいるが、井上さんは、ウイルスとの戦争で負けて国が滅ぶよりは「借金」を抱えても生き残ったほうがいい、と主張している。そして、反緊縮の立場をとらない限り、日本のお先は真っ暗だ、と書いている。