IOC(国際オリンピック委員会)とIPC(国際パラリンピック委員会)、日本政府、東京都、大会組織委員会の5者会議が開かれた2021年5月21日、改めて五輪の強行開催が確認された。
緊急事態宣言下でもできるというのだ。しかし、五輪中止を求める世論の高まりは激しさを増している。
いったい、なぜ政府や大会組織委員会たちは中止に踏みきれないのか――。
「進むも地獄、引くも地獄」の迷路
なぜ、五輪開催を強行しようとするのか――。「進むも地獄、引くも地獄」の迷路に入り込んだ菅義偉政権。そのジレンマを、朝日新聞(2021年5月20日付)「五輪強硬、政権に逆風 開催危ぶむ世論、批判の種に」が、こう伝える。
「政権中枢を支配する強硬論も、内情をみると変化が生じつつある。『当初は政権運営を好転させる想定だった東京五輪開催。いまは五輪がマイナスになりかねない。誤算だ』。首相周辺は五輪を取り巻く世論に悲痛な声をあげる。五輪の成功を記念碑として打ち立て、衆院解散・総選挙で政権の継続を国民に問う――。首相が描いたシナリオは、新型コロナウイルスの猛威の前にほころんだ。世論の反対を置き去りに突き進めば、政権の浮揚どころか、逆に批判を招きかねない」
5月31日に期限を迎える東京都などへの緊急事態宣言も延長を余儀なくされそうだ。これも想定外の大ピンチだ。朝日新聞が続ける。
「五輪実現を最優先する政権は、5月末で東京の宣言を解除したい考えだ。だが、感染状況が改善しないまま宣言を解除すれば、すぐに再拡大する。首相周辺は『五輪を開会すれば、パラリンピックが閉幕する9月末までやめることができない』と指摘。万一、期間中に医療体制がひっ迫すれば、政権の足もとが崩れると危惧する。『五輪中止』の可能性をどう考えているのか。首相に近い閣僚は『いま、そこまで頭が回っている人はいない』と語る」
もう政権中枢の人間たちは、頭の中が真っ白の状態なのだ。仮に中止にしてもさまざまな難題が降りかかってくる。朝日新聞が続ける。
「『開催しても、中止になってもイバラの道だ』。組織委幹部が語る。大会の1年延期に伴い、組織委は仮設施設のリースや競技会場の借り上げ、車両や会場で使う備品の調達など、国内外の業者と2000件の契約更新に追われた。更新時、多くの業者から『仮に中止になっても、人件費や材料費は払ってほしい』と念押しされた。中止になれば組織委はチケット収入の約900億円を失う。さらに(関連業者の)倒産ラッシュが相次ぐ可能性がある。知事に近い関係者は『進むも引くも地獄だ』と話す」