いすゞ自動車の株価が、2021年5月14日の東京株式市場で前日の終値から279円(26.1%)高の1349円に急伸し、約1年5か月ぶりの高値となった。
前日の取引終了後に発表した22年3月期連結決算の業績予想で、会計基準変更のため単純比較はできないが、最終利益を前期比2.6倍の1100億円と見込んだことが好感された。同時に株主還元策の強化を打ち出したことも歓迎された。
タイで人気の「乗用車」 ピックアップトラックが快走
2021年3月期連結決算と同時に発表した22年3月期の業績予想は、売上高が前期比31.0%増と過去最高の2兆5000億円、営業利益が77.6%増の1700億円になった。
いすゞは20年12月にスウェーデンのボルボ傘下のUDトラックス(旧日産ディーゼル工業)を買収すると発表しており、この買収によって、22年3月期の売上高で2200億円、営業利益で40億円、それぞれ増える効果があるとしている。
それに加えて、国内・海外ともに前期に落ち込んだ需要が回復に転じ、車両や産業用エンジンの販売量が増えると見込んでいる。
いすゞは国内では現在、商用トラックのメーカーだが、海外ではたとえば、タイで自家用乗用車として人気のピックアップトラックを供給しており、それら全体の販売増を予想している。
さらに投資家心理を明るくさせたのは、配当予想だ。年間配当を過去最高の58円(前期は30円)と2倍近くに引き上げる。
いすゞは同時に中期経営計画も発表しており、その中でも株主還元策を大幅に改善した。従来は「総還元性向は平均30%」としていたが、「配当性向平均は40%かつ投資・資金状況を踏まえ自社株買い」と踏み込んだ。
SMBC日興証券は5月13日付のリポートで「ガイダンス(業績予想)、中期経営計画とも意欲的でポジティブ・サプライズの多い決算」と評価した。
トヨタとの資本提携、投資家に安心感広がる
いすゞは2021年3月に、トヨタ自動車と相互に約400億円を出資する資本提携を発表した。さらに日野自動車を加えた3社で共同出資会社を設立し、トラックの分野でも待ったなしの課題であるCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)に共同で取り組む。
いすゞとトヨタは2006年にも資本提携したが、その後解消。UDトラックスの買収にあたっても、いすゞとボルボは相互出資には踏み込まなかった。そんないすゞが独立路線から一転してトヨタ陣営入りしたことも投資家に安心感を与えているとみられる。
ちなみに、21年3月期決算は新型コロナウイルスの影響で特に上半期の販売が落ち込み、売上高が前期比8.3%減の1兆9081億円、営業利益が31.9%減の957億円、最終利益が47.4%減の427億円。原価低減などの費用削減を進めたものも追いつかず、大幅減益だった。
国内車両販売台数は前期比1万282台(14.4%)減の6万1071台、海外車両販売台数は4万4806台(10.2%)減の39万3064台で、総計は5万5088台(10.8%)減の45万4135台だった。(ジャーナリスト 済田経夫)