リモートワークの停滞が日本の命取り
さて、「日本企業のリモートワークに関する対応の悪さが、米国より回復が遅れる理由となっている」と、意外な観点から分析しているが、ソニーファイナンシャルホールディングス金融市場調査部のシニアエコノミスト、宮嶋貴之氏だ。「日本の1~3月期GDP:米国より回復が遅れる一因はリモートワーク対応」(5月18日付)の中で、コロナ禍にあって、なぜ米国の景気回復が早いのに日本が遅れているのかと、比較分析している。
そして注目したのが、ワクチン接種の進捗状況とともに、民間企業設備投資と民間住宅投資の項目でも著しく米国に遅れている点だった。いったいどういうことか。宮嶋貴之氏は、こう指摘する。
「ワクチン接種の遅れによって、景気回復力の差異が生じる項目として真っ先に思い浮かぶのは個人消費だが、消費以外にも回復力の差異が顕著な項目がある。設備投資と住宅投資だ。米国では両方ともコロナ危機前を超える水準まで回復した。
一方、日本は両方とも低迷が続く。コロナ危機のような経済ショックに直面すると、日本企業は慎重姿勢を強めて設備投資を抑制し、その結果、特に環境変化への適応に向けた投資が遅れる。その顕著な例がリモートワーク対応だ」
米国企業は、危機に際して積極果敢に新しい改革に取り組むのに、日本企業は嵐が去るまで首をすくめるというわけだ。その典型的な例がリモートワークというわけだ。Google社の職場モビリティデータ(従業員の移動記録)を日米で比較すると、米国のほうが日本よりもリモートワーク率が2倍以上高かった。
宮嶋貴之氏は、こう説明する
「米国ではコロナ危機によって日本よりもリモートワークが定着した。米国では感染の急拡大を受けてリモートワーク環境の整備が進み、企業はノートPCや通信設備、社内システムに投資をし、家計はリモートワークに適した住宅を購入した。これがGDP上では設備・住宅投資の押し上げとして反映される。アフターコロナにおいても企業の20%強、労働者の45%がリモートワークの継続を希望する結果が出ている。一方、日本は企業の慎重姿勢もあって、リモートワークの導入が進んでいない」
このリモートワークの遅れが生産性向上の阻害要因となり、ますます設備投資が下押しされる悪循環に陥っている。そして、景気回復の遅れにつながっているというわけだ。
(福田和郎)