「レシピがわかっても、おいしい料理はつくれない」
ただ、ファイザーが2021年のコロナワクチンの売上高を260億ドル(約2兆8000億円)と見込んでいる。また、モデルナは1~3月に17億ドル(約1800億円)を売り上げており、「開発メーカーはすでに十分稼ぎ、元は取った」(業界関係者)との指摘もある。米政権の特許停止の容認も、そのあたりの業界事情を見極めたうえでの判断と考えられる。
逆に、かねて途上国支援に米国以上に熱心な欧州諸国が、なぜ消極的なのか――。
欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は5月7日、EU首脳会議が開かれたポルトガルでの会見で、特許の一時停止は「ワクチンを世界中に行き渡らせるための、短期、中期の解決策にはならない」と述べた。多くの専門家も、ワクチンの生産量はにわかに増えないと指摘する。
ある専門家は「特許は料理で言えばレシピのようなもので、それがあればすぐおいしい料理が作れるわけではない。技術、設備が必要で、そのためには年単位の時間が必要」という。
特に、今回のファイザーやモデルナのワクチンはメッセンジャーRNAから遺伝子技術を使って作る。化合物を合成する医薬品などと異なり、技術指導を受けないと簡単には量産できないとされる。「これから始めようとしても1、2年で作れるとは思えない」(ファイザーのブーラCEO=最高経営責任者)ということだ。
原材料や生産設備を世界が取り合う事態にもなっている。米国が「囲い込み」の先頭に立っているとされ、「米国はワクチン製造に不可欠なフィルター、チューブ、シングルユースの専用バッグなど大量の資材をがっちりと抱え込んでいる。インドなど新型コロナが猛威を振るっている国では、......仮に特許が放棄されたとしても、資材がなければワクチン製造は不可能だ」(ロイター通信7日)などと報じられている。