コロナ禍に伴う「巣ごもり需要」の恩恵を受けた企業の代表例は、任天堂だろう。
2021年3月期連結決算は、最終利益が前期比85%増の4803億円となり、12年ぶりに過去最高を更新。家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」本体は、専用ソフト「あつまれ どうぶつの森(あつ森)」のヒットもあり、発売4年目にして最大の年間販売台数を記録した。
まさに絶好調だが、先行きに死角がないわけでもない。
「ニンテンドースイッチ」1億台超え確実
任天堂の2021年3月期決算の売上高は、前期比34%増の1兆7589億円だった。決算内容を説明したオンライン記者会見で、古川俊太郎社長は「あつ森のヒットがハードの販売をけん引し、前例のない規模で売り上げが推移した」と、胸を張った。
20年3月下旬に発売した「あつ森」は、偶然にも国内感染拡大の第1波と重なった。自宅にこもりながらもゲーム上の無人島で他のプレーヤーと交流できる内容がウケて、累計販売本数は3263万本にも達した。
ソフトでは、他にも「マリオカート8 デラックス」や「リングフィット アドベンチャー」も売れ行きが好調で、21年3月期のソフト全体の販売は前期比36%増の2億3088万本にも及んだ。
この好調さが「ニンテンドースイッチ」本体の販売を押し上げた。スイッチの発売は17年3月で、これまでの任天堂の家庭用ゲーム機ならば、発売4年目はすでにピークを迎える頃だ。実際、20年3月期に2103万台だったスイッチの販売台数について、21年3月期は1900万台にピークアウトすると、任天堂自身が当初見込んでいた。
しかし、巣ごもり需要で逆に37%増の2883万台と勢いを増した。累計販売台数は8459万台となり、1億台超えは確実。12年前の最高益の原動力となったゲーム機「Wii」の1億163万台をしのぎ、最も売れた任天堂のゲーム機になりそうだ。
課題は「売り切り型ビジネス」からの転換
ただ、さすがに2022年3月期まで勢いは持続できず、スイッチの販売台数は12%減の2550万台と見込む。連結業績予想も、売上高が9%減の1兆6000億円、最終利益が29%減の3400億円を予想する。
決算と業績予想は21年5月6日の株式取引終了後に発表されたが、翌日の任天堂の株価は一時3.1%下落。市場参加者は巣ごもり需要の反動を警戒した。世界的な半導体不足がスイッチ本体の生産に影響を及ぼす可能性もあり、業績の落ち込み幅が拡大する懸念もある。
さらに長い目で見ると、任天堂にとって引き続き課題となるのが売り切り型ビジネスからの転換だ。ファミリーコンピュータを発売した1980年代からゲーム機本体と専用ソフトを販売するビジネスモデルを基本としており、それはスイッチまで続いている。だが、ゲーム業界の主流はスマートフォンなどの汎用ハードで楽しむサブスクリプションサービスに移りつつあり、すでにグーグルなどの米巨大ITが参入している。
任天堂もスイッチ利用者向けに、さまざまな付加機能を利用したり、懐かしいゲームをプレーしたりできるサブスクサービスを始めている。「あつ森」でオンラインプレーを楽しむには、このサービスに加入する必要があり、作品のヒットに伴って登録も増えているという。
それでもゲーム機本体を前提にしたビジネスモデルであることには変わりない。米巨大ITとは違った任天堂独自の収益構造を見いだせるか。「スイッチ後」をにらんだ戦略が試されている。(ジャーナリスト 済田経夫)