ワクチン接種を嫌う「恐怖本能」
冒頭で紹介した「極度の貧困」についての誤解は、ネガティブ本能に根差すものだ。人は物事のポジティブな面より、ネガティブな面に注目しやすい。1800年から現在までの極度の貧困率のグラフを示し、1800年には85%だったのが、1966年には50%、2017年には9%まで減少した、と書いている。20年前には29%だったから半減しているのだ。
良くなっているのはこれだけではないとし、戦争や紛争の犠牲者数、乳幼児の死亡率、飛行機事故の死者数、農作物の収穫量、インターネットを利用できる人の割合などどんどん良くなっている32の分野を紹介している。
コロナ禍の今こそ、読んでもらいたいと思ったのが、第4章の「恐怖本能」だ。ワクチン接種に関するトラウマについて書いている。「批判的思考」という「錦の御旗」のもとに間違いを犯し、子供向けのワクチンの接種をしない愚かさを指摘している。
本書は2019年に発行されたので、新型コロナウイルスの流行前に書かれたが、もし改訂版が出るとしたら、きっとコロナワクチンについて触れるはずだ、と思った。
訳者はIT技術者の上杉周作さんと翻訳家の関美和さん。訳者あとがきに、「セルフチェックに役立つのが、本書で紹介されていた10の本能です。もし、どれかの本能が刺激されていたら、『この情報は真実でない』と決めつける前に、『自分は事実を見る準備ができていない』と考えたいものです」と書いている。
ネットが普及し、情報を疑うことが容易になった今こそ、自戒したいものだ。
本書の冒頭に13の質問があるので、繰り返し朝礼で使えるだろう。(渡辺淳悦)
「FACTFULNESS(ファクトフルネス)」
ハンス・ロスリングほか著
日経BP社
1980円(税込)