東京オリンピックの開催まで残り70日を切ったが、新型コロナウイルスの感染拡大が一向に収まらないばかりか、2021年5月14日、新たに緊急事態宣言に北海道と岡山県、広島県が追加される事態となった。
そんななか、各地の知事たちに燎原の火のように反乱が広がっている。また政府の足元でも、「追認機関」だった分科会が初めて反旗を翻した。
いよいよ感染症の専門家たちも「良心」に従って、東京五輪に真正面から向き合うようになってくれたか。
茨城県と千葉県知事が「五輪より県民の命が大事」
国際オリンピック委員会(IOC)もとんだ赤っ恥を世界にさらしたものだ。性懲りもなく「断固東京五輪を開く」とオンラインで記者会見している最中に、自称「日本の記者」が乱入、東京五輪中止を求めて英語の聞くに堪えない4文字言葉を乱発、IOCをおちょくった。
デイリースポーツ(5月13日付)「IOC、日本の中止論をけん制『世論に動かされることない』『五輪始まれば支持される』」が、こう伝える。
「国際オリンピック委員会(IOC)は5月12日、理事会を開催し、マーク・アダムス広報部長によるオンライン会見が行われた。開幕まで2か月半となった東京五輪について日本国内では中止論が強まっているが、同広報部長は『世論には浮き沈みがある。我々は耳を傾けるが、世論に動かされることはない』とキッパリ。『開催されれば、世論は五輪を支持すると確信している』と、楽観的な見方を示した」
ところが、記者たちからの質問に移ると、質問の機会を与えられた「日本の記者」を名乗る外国人男性が「NO OLYMPICS in TOKYO」と書かれた布を掲げながら、アダムス広報部長に質問は一切せず、英語で非常に下品とされる言葉を交えながら「NO OLYMPICS!」と叫びまくった。慌てたてIOC側は映像を打ち切ってしまった。
こんななか、知事たちの政府と東京五輪組織員会への「反乱」が始まった。五輪への医療協力の要請を「県民の命が大事だ」と拒否したのだ。共同通信(5月12日付)「五輪選手の病床確保の要請を拒否 茨城知事、五輪組織委に」がこう伝える。
「茨城県の大井川和彦知事は5月12日の記者会見で、東京五輪・パラリンピック組織委員会から、選手や関係者が新型コロナに感染した際に受け入れる専用病床の確保を求められたが、『県民より選手を優先できない』として断ったと明らかにした。また五輪開催の是非について『必ずやらなければいけないことではない。状況に応じて中止の判断もあり得る』と発言。『大阪府が陥っている医療崩壊に近い状況で五輪だけを開催するならば、国内だけでなく世界から理解を得られない』と説明した」
千葉県の熊谷俊人知事もこれに続いた。共同通信(5月13日付)「千葉知事、五輪病床確保に否定的『県民使えない形は考えない』」が、こう報じる。
「千葉県の熊谷俊人知事は5月13日、東京五輪パラ組織委員会が、新型コロナウイルスに感染した選手らを受け入れる専用病床の確保を医療機関に求めていることに関し、否定的な考えを示した。記者会見で『県民が使えない形で病床を占有することは考えていない』と述べた。組織委から県内の病院が個別に打診を受けたと経緯を明らかにしたうえで『県内の医療資源に大きな影響が出ないよう組織委に伝えている』と説明した」
東京新聞(5月14日付)「五輪専用病床『考えず』首都圏知事、要請には否定的」によると、神奈川県と埼玉県も茨城、千葉に続く動きが見せている。
「神奈川県の黒岩祐治知事も、特別に病院を用意することはとても対応できる状況ではないと(千葉の熊谷知事と)同様の考えを表明した。埼玉県オリンピック・パラリンピック課は取材に対し、『県民と同じ扱いを考えている』と説明した」
つまり、「県民ファースト」という当たり前のスタンスを示したのだ。ただし、さすがに主催する東京都の大会準備局は、
「実際に何床確保する必要があるのか、今後調整することになる」
と述べるにとどまった。
米陸上チーム「危険な日本」の合宿中止の衝撃
そんななか、衝撃的なニュースが飛び込んで来た。米国の陸上チームが、コロナ状況が危険だとして、五輪前の日本での合宿を中止すると通告してきたのだ。昨年の東京五輪延期も米国の選手団、とりわけ陸上チームの危機感がきっかけだった。スポーツ報知(5月12日付)「米国陸連が千葉での事前キャンプ中止『安全面に懸念』と通達」が、こう伝える。
「東京五輪の米国陸上チームが千葉県内で実施予定だった事前合宿を中止することがわかった。千葉県が12日、発表した。米国陸連から中止の連絡があり、『新型コロナの世界的流行が続き、今後も収束の見通しが立たない中で、選手の安全面に懸念が生じているため』との理由が伝えられた。事前合宿は7月上旬~8月上旬を予定。成田市や佐倉市、印西市の運動施設を使うことになっており、準備が進められていた。千葉県の熊谷俊人知事は『中止は残念だが、米国陸連が現在の状況下での最善策として判断したものと考えている』とのコメントを出した」
スポーツ報知はこう続ける。
「各国チームの事前合宿のキャンセルは各地で相次いでいるが、米国の陸上チームは五輪の花形でもあり、その動向の影響力は大きい。『選手の安全面への懸念』が簡単になくなる保証はなく、今後さらに大会への悲観論が加速する可能性もある」
米国選手団の不安の背景には、海外メディアの相次ぐ「東京五輪中止論」が影響している可能性がある。
共同通信(5月13日付)「仏紙1面に『東京五輪はKOか』日本政府のコロナ対策批判」によると、5月13日付のフランスの有力紙リベラシオンが、1面トップに「東京五輪はKO(ノックアウト)か?」という見出しを掲げ、日本国内で中止を求める世論が高まっていることを伝えた=上の写真参照。社説でも日本政府のウイルス対策を「緩い」と指摘。東京都立川市の病院が「五輪やめて」とのメッセージを窓に張りだしたことなどを紹介。「日本政府当局は、ウイルス検査の拡大も、ワクチンに飛びつくことも、病院の体制強化も、必要な財政支援も、1年以上どれもせずにウイルス流行を放置した」と痛烈に批判した。
デイリースポーツ(5月12日付)「NYT紙が東京五輪中止求める寄稿掲載『茶番やめるべき』 著者『いい加減にしろ』」によると、米有力紙ニューヨーク・タイムズが5月11日、「スポーツイベントはスーパー・スプレッダー(感染を猛拡大させる者)イベントであってはならない。五輪は中止だ」と題した政治学者ジュールズ・ボイコフ氏のエッセイを掲載した=左の写真参照。ボイコフ氏は新型コロナ禍での五輪開催で感染が急拡大する危険性を指摘。強行に突き進む理由について「3つある。金、金、そして金だ」と、主催者を皮肉った。
(福田和郎)