国民一人ひとりの命のために、一刻も早く接種したい新型コロナウイルス対策のワクチンだが、各地で大混乱が発生。順番待ちの大渋滞が起こっている。
そこへ割り込んでくる「上級国民」がいる。地元の自治体に絶大な権勢をふるう財界人と、当の自治体の首長だ。いったい、どうなっているのか――。
高齢者に先駆けて接種を受ける首長たちの「理屈」
新型コロナウイルスのワクチン接種をめぐっては、自治体の首長らが一般の高齢者に先駆けて接種を受けた例があることが、2021年5月12日から14日にかけて、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、共同通信らによって相次いで報道された。
各首長本人や役所担当者の説明によると、接種した理由はこうだ。
(1)茨城県城里町・上遠野(かとうの)修町長(42)。ほかに副町長、教育長、町役場職員ら計12人。
「医療従事者の接種で12人分のキャンセルが出たから。自分は接種会場となる診療所の設置者であり、医療従事者にあたる」
(2)茨城県大洗町の国井豊町長(55)。
「自分は町消防本部消防庁を兼務しており、救急隊員と同じ医療従事者にあたる。町民からも副反応に対する不安が寄せられており、自ら接種し、安心してもらう狙いもあった」
(3)岐阜県下呂市の山内登市長(63)。副市長も接種。
「医療従事者向け接種でキャンセルが出たため、一本も無駄にできない。コロナ対策の最高責任者として、市民の命を守るために決断した」
(4)大阪府河南町の森田昌吾町長(64)と町職員約50人。
「地元医師会から住民の不安払しょくのため、接種事業にあたる職員が率先して接種してはという提案があった」
(5)大阪府千早赤阪村の南本斎(ひとし)村長(66)。
「高齢者施設でキャンセルされたワクチンがあまったから」
(6)兵庫県三田市の森哲男市長(69)。
「医療従事者向けワクチンがあまったから。この接種が問題とは考えていない」
(7)兵庫県神河町の山名宗悟町長。
「危機管理を担う立場から接種した。町民に事前に伝えておらず、信頼を裏切ったことをおわびする」
(8)埼玉県寄居町の花輪利一郎町長(76)。副町長、教育長も接種。
「私自身実際に接種者を解除することがあるので、医療従事者にあたる。ワクチン接種は町の一大事業。私が感染して接種する人にうつしてはいけないので、打たせてもらった」
町長「私は病院長のようなもので医療従事者」
この中でも、とりわけメディアの注目を集めたのが、茨城県城里町の上遠野(かとうの)修町長(42)だった。記者会見で、「いったい何が悪い。どこに文句がある」とばかりに記者団をにらみつける対応がテレビに流れ、いかにも「上級国民」という印象を与えてしまった。
人口1万8000人の小さな町でありながら、東京大学経済学部卒、大林組や楽天社員を経て、初当選時は36歳という茨城県内では最年少の町長という輝かしい経歴もあって、記者会見でも「切れ者」という印象を与えた。
朝日新聞(5月13日)「町長『医療従事者に準じる』優先接種した首長の理屈」によると、上遠野町長はこう語った。
「町立の保健センターが接種会場になっています。保健センターが医療機関に変わり、私自身が保健センターの設置者であるため、実質的に私は病院長と同じような立場になります。だから、医療従事者に準ずるわけです。また、私は連日陣頭指揮にあたっています」
と強調したのだった。
こうした主張の動きについて、ほかの首長はどう思っているのか。日刊スポーツ(5月13日付)によると、大阪府の吉村洋文知事は、「自分から先に打つことはない」と、こう語った。
「首長だから早くというのは問題だと思う。ワクチンはみんなが求めているもので、限られた数の中で、医療従事者の方、高齢者の方とルールを作ってやっている。そのルールを逸脱するようなワクチンの接種はあってはならない。危機管理の総責任者で(首長の接種が)必要というのであれば、事前に市民に説明しなければいけない。説明した後に打つのであれば、いいと思う。そこを隠すのは権力を使った〈不正〉のように思う」
上遠野町長の「理屈」だと、公立施設で接種する限り、すべての首長は「実質的に病院長と同じ」で、医療従事者になってしまうが、どうなのか。
朝日新聞(5月14日付)「首長の『優先接種』賛否」によると、厚生労働省の見解はこうだ。
「町長は『医療従事者など』にあたるのか。範囲は、コロナ患者に頻繁に接する医師や病院職員のほか、保健所職員や接種会場の自治体職員ら。首長の記載はない。厚労省の担当者は『優先接種の考え方に照らせば、首長は一般的には医療従事者には当たらないのではないか』との見解だ」
つまり、職員は該当するが、首長はお門違いだというわけだ。
ワクチンが余ったら市職員でわけるのは当たり前
ところが、意外なことにネット上では首長の「優先接種」に共感の声が多い。
「各地で『余ったワクチンを...』という話が出てくる。活用しないともったいないのは確かだから、『余った時』の決まりを作ったほうが問題解決になると思う。キャンセル分をムダにしないために、キャンセル待ちリストを作っていない自治体では、未接種の医療従事者や役所職員,幼保職員らに回して貰ってもいいと思います」
「私も市町村長や知事は優先接種でいいと思います。こういう時に首長不在のリスクを減らすべきだと思います。北海道北見市の辻直孝市長(67)が5月10日、コロナに感染し、代理を置かず病室からリモートで仕事すると言っていますが、周りが結構大変です」
「うちの自治体では、集団接種で余りが出たら市の職員が受ける事になっている。私の勤めているクリニックでも、余りが出たら誰でもいいから声をかけて、絶対余らないようにしてくださいと自治体から言われました」
「病院勤めをしていますが、余ったら大騒ぎになります。廃棄まで時間制限があるので、臨機応変に誰かに打ってもらわないと仕方ない。首長がコロナにかかって隔離とか話になりません」
一方で、こんな批判もあった。
「上遠野修町長の言い分『開設者だから医療従事者』は引っ掛かります。では貴方は市長の仕事をしながら、実際に医療に従事していますか?と聞きたくなります。こんな言い訳をしないで、『キャンセル分を廃棄するのがもったいないいので打って貰いました』でいいと思います」
「初めに広報で急なキャンセルがあった場合、その場にいる職員が接種することもあります、と書いておけばよかった。キャルセル待ちリスト(呼び出したらすぐ来るという条件で募集しておく)を作って、すぐに呼び出して接種するという体制を作るのがいいと思う」
(福田和郎)