国民一人ひとりの命のために、一刻も早く接種したい新型コロナウイルス対策のワクチンだが、各地で大混乱が発生。順番待ちの大渋滞が起こっている。
そこへ割り込んでくる「上級国民」がいる。地元の自治体に絶大な権勢をふるう財界人と、当の自治体の首長だ。いったい、どうなっているのか――。
スギ薬局の女性秘書「話にならない。上を出して!」
65歳以上の高齢者のワクチン接種が2021年4月12日から始まって1か月経ったが、全体の接種率は1回の接種が終わった人でも1%に満たない状況だ(4月26日厚生労働省公表)。
予約の受け付け段階から大混乱に陥っているからだ。コールセンターの電話がつながらない。インターネットで予約しようとしても回線がパンクして凍り付く。ネットに不得手な高齢者が役所に押しかけ、パニック状態になる光景が全国で見られる。
こんな状態に呆れたのか、河野太郎・ワクチン担当大臣が「私の失敗だ」と反省の弁を述べた。毎日新聞(5月14日付)「新型コロナ 河野氏『完全に僕の失敗』高齢者予約、混乱受け陳謝」が、こう伝える。
「河野太郎行政改革担当相は5月12日夜のTBS系報道番組『NEWS23』で、新型コロナワクチンの高齢者向け接種の予約が各地で殺到していることについて『効率性より(住民の)平等性を重んじる自治体が多かった。これは完全に僕の失敗だ』と陳謝した。政府は接種業務を担う自治体に対し、住民の年齢や居住地域ごとなど接種券を段階的に発送して、予約の集中を防ぐよう求めたが、多くの自治体で初日から申し込みが殺到し、混乱が生じている」
というのだ。
つまり、河野大臣は「効率性」を求めていたが、住民に対して「平等・公平」に接しようとする自治体の対応が混乱を招いたと、責任転嫁ともとれる発言をしたのだった。
しかし、本当に「平等」だろうか。各地で「上級国民」にワクチンを優遇接種しているのではないか、と疑われる事例が発覚している。
5月11日に愛知県西尾市の近藤芳英副市長が、ドラッグストア大手「スギ薬局」を展開する「スギホールディングス(HD)」からの強い要望を受け、同市に住む杉浦広一会長(70)と妻・昭子相談役(67)のワクチン接種の予約を優先的に確保していたことを自ら明らかにした。
地元紙の中日新聞のスクープ取材を受け、あわてて公表したのだった。
事の顛末を地元テレビ局の東海テレビ(5月11日付)「スギHD秘書から再三の電話『話にならない 上を出して』 会長夫妻のワクチン予約、便宜はこうして図られた」が、スギ薬局側の圧力を詳しく、こう報道している。
――5月11日会見で謝罪したのは西尾市の中村健市長、近藤芳英副市長ら市の幹部。
中村市長「通常の働きかけという言葉ではなくて、より強い、より重いものだったと思いますので、圧力やプレッシャーという形で現場としては認識をして対応したものと考えております」
西尾市の発表によると、事の発端は4月12日、スギHDの秘書から西尾市の健康課にあった1本の電話。会長夫妻のワクチン接種について、秘書はこう話したという。
秘書の女性「4月19日から始まる高齢者入所施設の枠で、受けることはできませんか?」
健康課職員「高齢者入所施設の枠ではできません」
一たんは断ったものの、その後も電話があり課長が対応。しかし...。
秘書の女性「あなたじゃ話にならない。上を出して」
その後、健康福祉部長は特別扱いできないことを秘書に伝えた。すると......。
秘書の女性「夫妻は薬剤師であるので、医療従事者の枠でからめられませんか?」
健康福祉部長「店舗に出ているんですか?」
秘書の女性「出ていません。なんとかなりませんか」
その後も秘書からの電話は続き、近藤副市長が対応することに......。
近藤副市長「私の判断の根底には、スギHDの会長ご夫妻にはこれまでさまざまな形でご支援をいただいております。なんらかの形でお返しできないかと考えたものではあります」
近藤副市長の指示で一般予約の開始前に「仮予約」。その後、夫妻の接種は正式に予約されました。そして、5月10日午後から接種の予定でしたが、外部から指摘(編集部注:中日新聞の取材電話)を受けたことから、近藤副市長から予約を取り消しました。その際、夫妻は集団接種会場に向かって移動中でした。――。
まさに間一髪だったわけだ。中村健市長は一連の問題を発覚まで知らなかったという。