「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」(徳川家康)
とばかりに、誰が「東京五輪中止」を言い出すかを待つチキンレースになってきたが、IOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長は、依然として崖っぷちギリギリまで突っ走る考えのようだ。
しかし、その足元で五輪選手たちがついに声を上げ始めた。
子供のいるママさん選手が続々と出場辞退に
東京五輪中止を求める国民の怒りが広がっている。元日本弁護士連合会会長の宇都宮健児氏が2021年5月5日正午から呼びかけたオンラインの「五輪中止署名」は、11日16時現在、32万6000筆を超えた。
5月9日には、東京五輪の陸上競技のテストイベントが行われた新国立競技場周辺で「五輪中止」を求めるデモが行われた。スポーツニッポン(5月10日付)によると、約100人が参加。「コロナ五輪」「殺人五輪」の言葉が並んだプラカードも掲げられ、参加者の3倍ほどの警察官が誘導する物々しい雰囲気になった。
聖火リレーも各地で中止に追い込まれている。時事通信(5月10日付)によると、新型コロナ感染拡大を受け、7日に全面中止を発表した福岡県に続き、兵庫、岡山、広島各県が10日、公道での実施の全面中止を表明した。安倍晋三前首相のお膝元である山口県でも、2日間のうち1日目のリレーを中止する。実施予定地域でクラスター発生が相次いでいるからだ。
海外の著名選手たちからも、東京五輪の参加拒否を表明する動きが出始めている。日刊スポーツ(5月10日付)「サッカー女子米代表モーガン、1歳娘の東京同行不可に抗議 母として心境告白」などによると、新型コロナ感染防止対策の「海外観客受け入れ拒否」のため子供を連れていけなくなったママさん選手の不参加表明が相次いでいる。
サッカー女子米国代表のアレックス・モーガン選手(31)が、1歳になる娘のチャーリーちゃんを東京五輪に連れて行けないことに抗議。特例が認められない場合は出場を辞退するとしている。モーガン選手は、
「この1年間、国内外問わず遠征先には必ず娘を連れて行った。母親として、常に支えられている。東京でもその気持ちを持ち続けたい」
と母親としての心境を告白した。
2歳の娘がいる米国の陸上女子短距離代表のアリソン・フェリックス選手(35)も、
「私は母乳で育てているので特にこの問題には敏感。娘がまだ1歳になる前に大会に出た時は、子供の近くにいる必要があることを実感した。東京大会でもそういう母親について考慮する必要がある」
と訴えている。
女子テニスで、4大大会23度の優勝を誇るセリーナ・ウィリアムズ選手(米国、39)も、2017年に誕生した長女オリンピアと「24時間以上、離れたことはない」と言い、「もし、オリンピアを東京に連れて行けないならそれ(不参加)が答え」と参加拒否を明言した。
日刊スポーツによると、世界各国の女子選手から幼い子供が入国できるかという問い合わせが五輪組織委に来ているが、返答はなく、IOCも入国制限下での子供の入国が可能かどうかについては明言していない。
日刊スポーツは、こう結んでいる。
「丸川珠代五輪大臣は3月に『(東京五輪の)女性の積極的な参加は、豊かで活気に満ちた持続可能な社会の創造と、誰もが快適に暮らせる社会の実現につながる』と語った。女子選手に幼い子供を自国に残すよう求めることは、女性尊重を主張するIOCと主催者にとってどれほど空虚であるかを示している」
錦織圭選手「死人を出してまでやることですか?」
日本のアスリートたちからも、東京五輪の開催に疑問の声が上がり始めた。スポーツ報知(5月10日付)「錦織圭、コロナ禍にゆれる東京五輪は『死人が出ても行われることでないと思う』」がテニスのスター、錦織圭選手(31)の異議申し立てをこう紹介する。
ちなみに錦織圭選手は昨年8月、コロナに感染して全米オープンを欠場。味覚がなくなるなどの後遺症に苦しんだ。
「錦織は東京五輪について口を開いた。『安全に開かれるなら開かれるべきだけど、この状態で僕は何とも言えない。選手村で100例、1000例の感染者が出るかもしれない。コロナはとても容易に拡大してしまうから。究極を言えば、1人でも感染者が出るなら気は進まないです。例えばだけど、死人が出ても行われることではないと思うので。究極的には、一人もコロナ患者が出ない時にやるべきかと思いますけどね』と人命優先を投げかけた」
女子テニスの大坂なおみ選手(23)も「しっかり議論すべきだ」と主張した。ロイター通信(5月10日付)「大坂なおみ、五輪開催は『危険あるなら議論すべき』」が、こう伝える。
「大坂は、記者会見で『もちろん、五輪を実現してほしい気持ちはある』としつつも、『特にこの1年は重大なことがたくさん起こっていて、多くの予想外のことが起きた。人々を危険にさらす可能性があるのならば、絶対に議論すべきだと私は思う』と語った。また、ワクチン接種に関しては『私はワクチンを受けたが、結局のところ、誰かにワクチン接種を強制することはできない』とも述べた」
ワクチンといえば、5月6日にIOCが参加選手向けに別枠で調達し、大会までに接種できる環境を整えたと発表した。日本国内では、医療従事者や高齢者への接種が完了していないという事情もあり、アスリートへの「優先接種」だとして批判が上がっている。選手からも戸惑いや反発の声が起こっている。
スポーツ報知(5月9日付)「新谷仁美 五輪選手へのワクチン優先接種に私見『どの命も大きい小さいはまったくない』」が、こう伝える。
「女子1万メートルで東京五輪内定の新谷仁美は、会見でワクチン接種への考えを問われた。『個人意見ですが、アスリートだけが特別というふうな形で聞こえてしまっているところが非常に残念でもあるし、どの命にも大きい、小さいはまったくない。五輪選手だけに優先順位をつけること自体おかしな話だと思う。どの命も平等に守らないといけないので、そこは平等に考えて欲しい』と力を込めた」
また、スポーツ報知(5月8日付)によると、新体操主将の杉本早裕吏選手もこう語った。
「ありがたいことですが、国民の方々を優先してワクチン接種をやっていただきたい。(ただ、接種することになれば)感謝の気持ちを忘れないで、五輪に向かって行きたい」
有森裕子さん「組織の意固地さが池江さんを苦しめる」
こうした五輪選手の優先接種について、「アスリート自身を苦しめる無責任なやり方」と怒りをぶつけるのが、競泳のシドニー五輪銅メダリストでスポーツコメンテーターの田中雅美さん(42)だ。
スポーツニッポン(5月10日付)「田中雅美さん、五輪選手のワクチン優先接種に『この一報が入った時、無責任の気が』『選手に選択させる...』」が、こう糾弾している。
「田中雅美さんが5月10日、TBS『ひるおび!』に出演。IOCが東京五輪参加選手にワクチンを無償で提供すると発表したことに言及した。田中さんは『この一報が入った時に正直な話、無責任な気がしました。結局、提供しますが(接種の)判断は選手に任せますと言ったら、どういう形が正解なのか。医療従事者、高齢者で待っている方もいる中で、自分が打ちますと言ったらその方たちに申し訳ない、しかし打たないと言ったら危険が及ぶのかもしれない。どっちが正解なのか、わからないことを選手に選択させる...』と説明。そのうえで『やるのであれば、そういうことが安全になるのですよというメッセージをもっと前面に言ったら選手も選びやすいと思う』と自身の思いを話した」
五輪代表選手に「つらい選択」が課せられるといえば、白血病と闘いながら代表入りを決めた競泳女子の池江璃花子選手(20)に、SNSを通じて代表の辞退や五輪への反対を求めるメッセージが寄せられていることが問題になっている。元五輪代表選手たちが、池江璃花子選手に重荷を背負わせている政府や組織委員会を痛烈に批判している。
日刊スポーツ(5月9日付)「池江璃花子の〈叫び〉に為末大さんが、有森裕子さんが...」が、こう伝える。
「池江璃花子が7日に、SNSを通じて代表の辞退や五輪への反対を求めるメッセージが寄せられていることをツイッターで明かした。一夜明け、8日までにこの発信を巡る一連の動きに、次のように多くの反応が集まった。◆ 元陸上選手で五輪に3度出場した為末大さん 「アスリートやその他の表現者の方も含め様々な方々が自分の夢に向かって一生懸命頑張っていることは何一つ咎められるようなことでもなく素晴らしいことで、それで勇気をもらう人もたくさんいると思います。ただその舞台を行うかどうかはまた別の話で冷静に判断することになりますが、それは別の話です」
◆ 陸上女子マラソンで五輪2大会連続メダリストの有森裕子さん
「組織が『意固地』とも感じる発信をし続けている現状が、このような理不尽な矛先の向けられ方を生んでいます!」
そして、池江璃花子選手を利用しようとした西村康稔・経済再生担当大臣に対して、アルピニストの野口健さん(47)が怒りのツイートを炸裂させたのだった。
スポーツ報知(5月11日)「野口健さん、西村大臣の『池江選手見たい』発言に苦言『あまりに配慮に欠けている』」が、こう伝える。
「西村氏が5月9日放送のNHK『日曜討論』に出演。開催が危ぶまれている東京五輪について『不安の声もあると思うが、一方で池江璃花子選手を見たいと思っている方もいると思う』と発言した記事を貼り付けた野口氏。『池江さんに対し、五輪出場への辞退を呼びかけるという卑劣極まりない投稿が問題視されている中で、この西村大臣の発言はあまりに配慮に欠けている。この発言がアスリートへの誹謗中傷をさらに煽ってしまうかもしれない。五輪開催に対する不安を解決するのはあなた方の役割である』と訴えていた」
(福田和郎)